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君に捧げる千の花束 7

 その恐怖に打ち勝てない間に、薫は惹かれ合う相手を見つけてしまった。  Ω因子の強い薫は、まるで運命に惹かれるようにあっという間にその男を愛して……  喜蝶は記憶の中にある薫のフェロモンの匂いを思い出そうとし、それがどんどんと薄れて甘くていい匂いだったと言う感想しか残っていないことに気づき、深いため息を吐いた。  甘く、蕩けるようなバニラの匂いと味のフェロモン。 「あんな香り、誰からも感じない」  煙を吐き出す動作に紛れて呟くと、後ろから伸びてきた手がぎゅっと喜蝶を抱きしめた。  ベタつくような味と神経を逆撫でするような臭い。  幾らタバコで誤魔化そうとしても誤魔化しきれない生理的な嫌悪を飲み込んで、喜蝶は努めて優しい笑顔を佑都に向ける。 「なーに考えてた?」  その様子は自分の他にも恋人の影がいないか探るような色が含まれていた。 「ん、学生の時のこと。佑都は一番楽しかったのって、高校の時だった? それとも大学?」 「僕? うーん……大学は、ちょっとガラが良くない人もいたから……」 「そんな人いたの? 佑都は何もされなかった? 今更心配してもなんだけど、佑都が嫌なことされてたら……」  佑都は目の前で柳眉が歪み、自分だけを直向きに映しながら心配する姿に有頂天になりながら、広い胸板に頬を擦り付ける。 「僕は全然! 目立たなかったし……それに、あいつらの目当てはオメガばっかりだったから」  しん と、喜蝶の顔から表情が消えたことに、佑都は気づかない。 「あいつらがいる間はホント、最低の大学生活だった〜でも、首を噛まれちゃった子よりはマシかなぁ」 「……――――そんなこともあったの? そいつらの名前って、わかる?」  その瞬間、腕の中で蕩けていた体が跳ね上がった。  詰められた呼吸がわかるほどの緊張に、喜蝶は既視感を覚えて優しく背中を撫でる。 「な、なんで……聞くの?」 「同窓会とかで会ったら、佑都を守らないとだろ? 誰かわからないと盾になれない。俺は佑都に少しでも傷ついて欲しくないんだ」  佑都の指先に小さくキスを落とし、真綿で包むように体を抱きしめ…… 「    必要ないよ」  けれど返ってきた言葉は硬質な拒絶の言葉だ。 「あいつらは同窓会とか、皆の集まりに顔を出すような奴らじゃないし」 「でも、展示会…………個展とかしたら、くるかも」  びく と再び肩が跳ねた。 「なん……なんで、個展とかの話になるの? 僕は美術コースだったけど……」  瞳をよぎる疑問は佑都の体をこわばらせ、探るような視線に変えていく。 「だって、部屋を見たらわかるよ、佑都が美術を好きなんだって。特に、テキスタイル系に興味あるよね? 本棚の本がそうだから…………佑都のことをもっと知りたいって思ったんだけど、気持ち悪かったよね?」

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