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君に捧げる千の花束 8

 佑都は目の前の男が食い下がり、懸命に自分に好かれようとしているのだとわかると、先ほどまでの警戒を解いてその胸へともたれかかる。 「そんなに僕のこと知りたかった?」 「うん……でももう少しスマートにしたかった、佑都にかっこよく思われたいし」  しょんぼりとうなだれて甘えるように鼻先を擦り付けてくる姿は、佑都の心を甘やかに満たしていく。  街を歩けば誰もが振り返るような美しい男が自分の愛を乞い、さらにかっこよく見て欲しいと願っていることに佑都は有頂天になった。 「そんなことない! 喜蝶は十分かっこいいよ?」 「ホント? 俺以外見たりしない?」  喜蝶は佑都のつむじにキスを落とし、肩を愛おしそうな雰囲気を出しながら抱きしめる。  佑都の見えない場所でうんざりした表情を溢しながら……  佑都の名前に線を引く。  いつもと同じ行為なのに、喜蝶の指先はひどく緩慢で重かった。 「行けそうだったのになぁ」  在学中、芸術コースの……あの事件の起きた別棟を根城にしていた奴ら。  喜蝶は今度こそあの日、あの場所にいたαを見つけることができると信じていた……のに。 「今回もか……」  有名企業の子息αが多く在籍するからかその情報は頑なだった。  在籍していた生徒達から情報を探ろうとしても……なぜだかある一定の情報を得ようとすると拒否反応のような態度を取られてしまう。  何かに怯えるように……口をつぐんでしまう。  喜蝶はふんと鼻を鳴らしながらタバコを擦り潰す。  無駄な時間を取らされた苛立ちをぶつけるように側の石を蹴り飛ばし、次の名前を確認する。  こんな無駄な回り道をしている間にも、薫がどんどんと衰弱していっている、その事実に喜蝶はめまいを覚えそうだった。  薫の治療には、薫の頸を噛んだαのフェロモンが必要だ。  それがわからないことには効果的な治療は行えないのだと、銀縁メガネの奥の瞳を細めながら研究者はそう告げた。  犯人がわからないこと、事実を言うのを薫が拒否していることを告げると、公的には何もできないと言われてしまい…… 「あの時のアルファが誰なのか……早く突き止めないと」  そう言うと喜蝶は再びタバコを咥えた。 「あいつか」  タバコを消しながら、目の前のカフェから出てきた男を見る。  佑都のように体で落として近づくのは無理そうな雰囲気に、舌打ちをしながらそっと後をつけていく。  色仕掛けで話を聞くのが一番簡単だった。女優だった母から譲り受けたこの顔は随分と役に立つようで、じっと見つめて甘い言葉を囁けば大体の奴はすぐに自分を受け入れるようになる。

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