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君に捧げる千の花束 9
そんな顔も、当然ながらすべての人間に効果があるわけではなく……そうなれば喜蝶が取れる方法はただ一つだった。
喜蝶は慎重に跡をつけ、数日間行動パターンを調べ続ける。
次のターゲットである後藤の行動は、コンビニのバイトに出ては時々友人と会ったりの繰り返しのようで、大学の延長でダラダラとつるむ仲間と日々過ごしているようだ。
喜蝶は仲間たちとくだらないことを言い合って笑っている後藤を見ると、薫と過ごした学生生活を思い出し、一瞬訪れた胸の痛みを感じていた。
あの時、運命にこだわらずに素直に薫に愛を告げていたら、今は何か変わっただろうかと幾度目かの問答を噛み潰す。
結局自分は間違えたのだ と、仲間たちと騒いでいる後藤を眺めながら思う。
同じ空間にいるのにどこか自分だけ水槽に入れられて隔離されているような感覚になり、慌てて首を振った。
感傷に浸るのは薫の頸を噛んだ犯人を見つけ出してからで十分だ……と、心を落ち着かせるために深呼吸をする。
「――――っ!」
ファミレスの中で友人たちと喋っていた後藤が飛び上がる。
その形相は今まで気楽に喋っていた時とはまったく様子が違った。
「…………」
何が引っ掛かったわけではない。電話を受けて血相を変える奴が今までにいなかったわけじゃない。けれど後藤の青ざめた様子が、喜蝶に何かを訴えかけた。
わずかな手がかりになるのでは……と身を乗り出す。あまり近くにも寄れないから、タバコを吸うふりをして店の駐車場に立つ。
慌てて店の外にまで出てて、電話に向かって頭を下げながらひどく取り乱した声でご機嫌をとるようなことを言っている後藤は、明らかにこの数日観察を続けた様子とは一線を画していた。
距離があるのに喜蝶を警戒するようにチラリと見てから、建物の裏側へと逃げていく。
無理に追って話を聞くのはー……無理だ。
どうしたものかと思案していると、二人の女の子が……仕事帰りだろうか? 疲れた足取りでこちらにやってくる。
喜蝶は逃さないように長い足で急いで近寄ると、二人の女性にライターを持っていませんか? と尋ねかける。疲れている彼女は最初、喜蝶の方を身もしなかったが、片方が喜蝶の顔に気づくと後は簡単だった。
「火? 私持ってたかも……」
「きみ、タバコ吸うの? そんなふうに見えないけど」
「えー? タバコも吸わない真面目そうな男に見えた?」
「うぅん、お肌とかすごく綺麗だから……」
喜蝶を見てぽおっと頬を赤くする女性の手をとって、そっと自分の頬に触れさせてみる。
「そう? 触ってみてどう?」
勤めて柔らかく微笑めば、もうこの女性が自分に興味を持ったのだと言うことがはっきりわかった。
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