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君に捧げる千の花束 12
喜蝶に名前を呼ばれて、佑都はパッと弾けるような笑顔を見せて梨香子との間に悪いってくる。
再び強く押されて、梨香子は堪えきれずに無様に尻餅をついてしまった。
「梨香子さん!」
痛みに顔を顰めている梨香子に手を伸ばすと、やはり佑都が間に入って邪魔されてしまう。佑都越しに見える梨香子の顔はポカンとしていたが、すぐに今の状況を理解したらしく、勢いよく立ち上がって佑都を突き飛ばした。
揺らいだ佑都はわざとらしい声をあげて、少し離れていた喜蝶の腕の中へと下手な演技で倒れ込んだ。
「 っ、いたぁ! あの女、突き飛ばすだけじゃなくて足まで踏んできた!」
「そんなことしてないよ! 挫いた足でそんなことできるわけないじゃない!」
お互いにその場所を守るために、お互いの不利になりそうなことを叫び始める。
「最初にぶつかってきたのはあなたでしょ?」
「それはあんたが僕の喜蝶に触ろうとしてたから! あ! もしかして痴女⁉︎」
大きな声で佑都は言うと、大袈裟な身振り手振りで騒ぎ立てて……結果、周りの人の目は「痴女」と呼ばれた梨香子へと向いて……
「じゃあ! あなたはいきなり暴力を振るってきた暴行犯じゃない! 警察呼んでください! この子、人に怪我をさせました!」
梨香子のよく通る声がショッピングモールに響き渡ると、客だけじゃなくて警備員が何事かと駆け寄ってくるのが見えた。
喜蝶は思わず耳につけられたピアス型のタグを押さえる。
性犯罪歴のあるαは必ずタグをつけなくてはいけない。
事件に巻き込まれた際や、身分証明をしなければ成らない時は隠し立てせずに、タグ情報を読み取ってもらわないといけない。
今の自分に科された鎖を思い出し、喜蝶はどうでもいいって考えを改めることにした。
どちらに味方をするかなんて明白だ。
振られたことにも気づかず、新しい彼女といるところに突撃してくるような奴は面倒なことこの上ない。
切れる機会があれば再起不能になるまで切っておくのが得策だ。
「梨香子さんっ怪我、そんなに酷い?」
「あ……喜蝶くん……一人じゃ立てないかも」
「ちょ……喜蝶! どうしてそっちなの? 君の恋人は僕でしょ⁉︎」
やはりつかみかかってきた佑都に、お前はもう用無しだ と言いたいところをグッと堪えて尋ねかけだ。
「だって、佑都は俺のこと何も知らないでしょ?」
「それが?」
「俺、もっと俺に興味を持ってくれる人が好きなんだ」
そう言って意味ありげな優しい顔で梨香子を見つめる。
言葉があったわけじゃないけれど、梨香子は何かを感じ取ったのか飛び上がるようにして笑顔を見せた。
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