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君に捧げる千の花束 14

「ミルクと砂糖たっぷりめのカフェオレを。バニラのフレーバーもつけて、生クリームもトッピングしてちょうだい」  女の注文はコーヒー……ブラックコーヒーと真逆をいくような甘ったるい仕様だった。  沈黙のまま注文した飲み物が運ばれてきて……コーヒーは喜蝶の前に、カフェオレは女の前に置かれた。  女はそれを微笑みながら正しい位置に置き直し、そこでやっと口を開いた。 「改めて。お久しぶりね、喜蝶くん」 「……………………おばさんも、元気そうですね」  薫の母を見ることができず、喜蝶の視線は目の前の生クリームから動かない。  視線をあげると、あの日の……自分に向けて鞄を投げつけ、いつも優しく微笑んでいた顔で罵ったあの瞬間を再び見てしまうだろうから、喜蝶はじっとしていた。  熱で蕩ける生クリームがカップの端から逃げるように溢れ出していくのを見ながら不貞腐れたような声で尋ねる。 「何か用事でも?」 「…………喜蝶くんは、今どこに住んでるの?」  唐突な質問をされて、喜蝶は答えを持っていなかった。 「住所がいるんですか? 慰謝料の件は親と話して解決したはずですが」 「おうちはどこ?」 「…………ここから二駅行ったところのマンション」 「その前は、川沿いのアパートで、その前は東区のほうのアパートだったわね」  彼女が何を言いたいのか分からず、そうだったかなと曖昧に頷いてみせる。  喜蝶にとって、宿主のアパートないしマンション等の立地なんてものはどうでも良い話で、寒い日に暖かく寝れて、暑い日に涼しく過ごせるならそれ以外に何も求めてはいなかった。  飯と寝床と、それから小遣いや生活用品。  喜蝶が必要としているものはそれらだった。  自分達の世界に子供が入り込んで来るのをよしとしなかった両親から見て、犯罪を犯した子供はますます近寄って欲しくない存在に成り下がったようで、家を売るから出ていけと言われて音信不通になり、親とはそれっきりだ。  携帯電話は解約されて、手元にあったのはたまたま財布に入れてあったわずかばかりの小銭だった。  高校も辞めるようにと手続きをされて……喜蝶は突然、何も持たずに社会に放り出された。  金を稼ごうにも、すべての職業はタグチェックされて……暴行の前科を知られると、断られるのはまだいい方で怒鳴られて手酷く追い返される職場も多く、ろくな働き口なんてなくて…… 「それが?」  つんとして答えると、薫の母親の手にぎゅっと力が入ったのがわかった。 「……ご両親は?」 「説明が必要? おばさんだって、あの人達のこと、よく知ってると思ってたけど」

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