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君に捧げる千の花束 15
親のことを話すにはあまりにも淡々とした様子に、薫の母親は徐々に顔色を悪くさせていく。
「なので、あの人たちと連絡を取るのに俺に接触しても無駄 っ⁉︎」
それは喜蝶が考えてもいなかった行動だった。
細く……以前より痩せたのがわかる手が、急に手を掴んできたからだ。引き寄せて殴られるのかと身を固くした瞬間、喜蝶の耳に絞り出すような謝罪の言葉が届く。
「 ご、 め、…………あなた、まだ、子供、だったのにっあの人たちが、どんな人かっ知ってたのにっ! ………………あなたは、薫が好きだって知ってたのに!」
引き絞られるような悲鳴と共に吐き出された声に面食らう。
サッとカフェの客の視線がこちらを向いたけれど、手を硬く握られすぎていて振り払うこともできなかった。
「おば さ……やめて くだ 」
「……………………あなたが、……喜蝶くんが犯人じゃ、ないんでしょう?」
何を言いたいのか、一瞬で悟る。
耳を打つ言葉は、薫と喜蝶の間でのみやり取りされるべきもので、母親とはいえ第三者から聞いていい言葉じゃなかった。
「………………誰に何、吹き込まれたの? 俺の擁護団体とかあったりする?」
「違う 違う……そうじゃないわ」
痛い。
喜蝶は細い指が食い込む感触をそう感じ、振り払って逃げ出したかった。
「かおるは、よっぽど俺のフェロモンを欲しいらしいね。別に犯人を作ってまで俺に会いたいなんて……愛だったりする?」
と、できるだけ感情を込めない声で言った。
一度深呼吸して、この女性にとっての自分の立ち位置を心の中で繰り返す。
蝶よ花よと育てた一人息子をレイプした男。
あまつさえ頸を噛んで番にした男。
恋人ができて、幸せが約束された薫を地獄に突き落とした男。
どれでもいい、と喜蝶は心の中で笑う。どれもが最低な話だったからだ。
「薫は、会いたがっているの」
「ほら! やっぱり! 俺の番なんだから俺のフェロモンが欲しくてたまらないんだ! やっと、やっと! かおるは俺が恋人で正しいってわかったんだ! ちょっと強引だったけど、かおるが正気に戻って俺を見てくれるなら ――――――っ」
ガン と鋭く響いた音が喜蝶の演説を止めた。
饒舌に喋っていた喜蝶も飛び上がるほどの音に、店内が静まりかえる。
「ちょ……おばさん?」
テーブルに打ち付けられた額。
ありえない力で叩きつけられたそれは……
「な、なんで……頭下げたいなんか……」
「もう……ごめんなさい! もう、やめて!」
金切り声に怯むと、薫の母はそれを見逃さなかった。
「懺悔したいってっ! ……自分が、耐えられている内に、本当のことを聞いて欲しいってっ」
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