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君に捧げる千の花束 18
手の中でクシャリと音を立てる紙片に目を落とす。
普通の事務や交通整理、コンビニとはまったく違う職種だけれど、それでも希望はないだろうと手の中で握り潰した。
ましてや芸能事務所はΩも多いと聞く……そんな中に、レイプの前科がある人間が入れるわけがない。
「…………今日の寝床はどうするかな」
本当なら梨香子の部屋でもう数日は問題なく過ごせるはずだった。
けれど、あの逃げっぷりを考えるともう二度と部屋に入れてもらえないだろう。
「あー……お堅い職業って言ってたっけ?」
それじゃあ無理だな と肩をすくめる。
未成年といったところで…………
「そっか。明日には成人か」
携帯電話で日付を確認して、もう何年も祝ってもらってなかったことに気づく。
それどころじゃなかったし、薫に祝ってもらっていた頃は気恥ずかしくて、嬉しかったけれどちょっと斜に構えるような態度になってしまっていた。
喜蝶は後ろを振り返り、薫の母親がまだ未成年だと言った時のことを思い出した。
「おばさんは、俺の誕生日を覚えてくれてたんだ」
ポツリと言葉を声に出すと、それがじんわりと広がっていくようで……自分を気にかけてくれていた人がいたのだと言う事実が、喜蝶の背中を押した。
七階建てのビルの前に建ち、携帯電話に送られてきた地図と照らし合わせる。
この芸能事務所は、何人目かのパトロンが「推しがいる」と騒いでいたところだったかと、喜蝶は看板の文字を眺めた。
いかがわしい雰囲気ではない。
とはいえ、ここで長く立ち尽くしていても守衛に声をかけられるだけだ と、喜蝶は受付へと歩みを進める。
黒縁メガネを外し、顔がよく見えるようにしてから、美しい姿勢を保ったまま微動だにしない受付の女性に声をかけた。
「恐れ入ります、本日十時に、御社の直江社長とお約束をしているのですが」
「お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「揚場です。揚場喜蝶と申します」
慣れない苗字を伝えると、女性は少々お待ちください と定例文を伝えて右手の休憩スペースへ促す。
「へぇー……」
大体の人間は、メガネを外して優しい表情を作って覗き込んでやれば多少は反応があるものだ。けれど、先ほどの受付の女性は伸びた背筋を揺らすこともなく、距離感をとった対応をしてくれた。
たったそれだけのことなのに、喜蝶はなんだか嬉しく思えた。
パーテーションの向こうには自動販売機もあり、無料で飲めるように設定されている。
ジュース代一つままならない喜蝶にとって、それはありがたい存在だった。
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