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君に捧げる千の花束 22

 美しい顔とは、結局のところどれだけ面白みがない造形をしているかということだ。  左右対称と言えば聞こえはいいが、結局のところそれで話は終わってしまうのだと、喜蝶は肩をすくめる。  美人は三日で飽きるのだと、皮肉混じりに言う。 「そんなことは言わず、少し考えてみてはくれないだろうか?」  柔らかに微笑む直江社長を見遣り、喜蝶は面だけなら自分で出ればいいだろうに……と心の中でごちた。 「もちろん顔がいいだけなら声はかけないよ? 君はどうしてだか妙に人目を引くと感じたんだ。可能性がなければ、こうやって話を聞いてくれることなんてないと思うのだけれど?」  本来ならそうだ。  でも、喜蝶がここまできたのはそれが目的じゃなかった。 「…………俺、多分まだ興味を持てないだけなんだと思うんです。正直、芸能人の仕事も生活もぴんときてなくて……」 「今まで、興味はなかった?」 「そう、ですね」  キラキラとしたそう言った世界は母と父のものだった。  羨ましく眺める俺にはあまりにも遠い存在だったそれに、喜蝶は何も感じなかった。  むしろ自分を置いていくものだと思っている。 「じゃあ、しばらく……マネージャーの助手でもして見学してみる?」 「……え」  喜蝶は一瞬迷っているそぶりを見せた。  何人もの人を虜にしてきたわずかに困ったような顔…… 「ちゃんとバイト代は出すよ? 人生経験の一つと思って、どうかな?」 「でも……俺、あんまり人付き合いが上手な方じゃないんで……あ、でも、さっき話してた人は話しやすかったですね」 「尊臣?」  そう、尊臣。  喜蝶は心の中で繰り返す。 「あの人の傍なら、続けられそうな気がするんですけど」 「ああ、あの子は懐っこい……けど、パーソナルスペースを無視してくる子だから、君には辛くないかい?」  切れ長の瞳は心の中を覗き込んできそうなほど静謐だ。  こちらが考えている下心もすべて見通しているような雰囲気だった。  喜蝶は飲まれそうになるのをグッと堪えながら、後ろめたいことなんて何もないんだと証明するように真っ直ぐに直江を見る。  瞬きを堪えると、目の端がピリリと痛むような気がした。 「じゃあ、尊臣の木田マネージャーの助手になってもらおうか」  思わず拍子抜けして声をあげそうになり、慌てて口を引き結ぶ。 「明日……そうだな、また木田から連絡を入れさせるから」 「はい!」 「今はどの辺りに住んでいるのかな? もし通うのが大変なようなら借り上げのマンションがあるよ」  その申し出に、心の中を読まれているような居心地の悪さを感じなかったわけではなかったけれど……

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