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君に捧げる千の花束 23

「お世話になりたいです」  そう言うと直江社長の笑みが深くなる。 「うん、じゃあ手配をしておこう。それから……尊臣は今、演技レッスンにも力を入れてるから、君も受けるといいよ」  なぜ自分に? と問い直す前に車は静かに停まり、運転手がドアを開けた。 「君はちょっと、演技が下手だ」  禁欲的な雰囲気のスーツを着ているからだろうか? 緩やかな微笑を浮かべ、視線を残すようにして去っていく直江社長を見て、喜蝶はぶるりと体を震わせる。 「彼をマンションへ」 「俺は運転手だぞ?」 「だから送って行けと言っている。終わった頃に迎えに来い」  そう言って秘書と共にビルに入っていく直江社長の背中を見送り、運転手の男はひとしきり文句を垂れてから乱暴に運転席へと戻り…… 「お前、降りろ」  そうぶっきらぼうに告げてくる。 「え? でも、俺……直江社長に雇ってもらえるって……」 「何企んでんだか知んねぇけどよ。そう言うのを事前に弾くのも俺の役目なワケ」  わかる? と、運転手の男はひらひらと黒い手袋をはめた手を振った。  さっさと消えろと言う合図に、喜蝶は運転席に喰らいつくように前のめりになる。  鋭い目つきに……スーツだからわかりにくかったが、男は随分としっかりとした体をしていた。  何かの格闘技を嗜んでいるのだと喜蝶に伝えるには十分の体格で……いざとなれば力ずくで排除することも厭わないのだと暗に伝えてくる。  一瞬、喜蝶は睨みつけようとし…… 「さっきの社長の指示は無視するんですか?」 「俺がいいように言っておいてやるよ。飛ぶ奴だって少なくないんだ」  は と鼻で笑われ、喜蝶はグッと唇を引き結んだ。  尊臣……時宝尊臣。  彼の兄が、あの大学にいたと聞く。  四人兄弟の末っ子だが、上の三人の誰かがあの大学にいた奴と言うことだ。  振ってわいた、時宝との接点のチャンスだった。   「でもっ俺は直江社長が直接スカウトした人材ですよ? もし俺が社長にこのことをチクれば……?」  二人のやり取りから、関係は話を聞くよりも素早く理解できた。  恋人同士……もしくはそれに準ずるような関係。そして、この男は直江社長の尻に敷かれているのだと、喜蝶は見抜いていた。  案の定、男は怯んだ表情を作る。  荒事を専門にしている割には、感情がすべて顔に出ているようだ。 「…………チクれないようにしてやってもいいんだぞ」  絞り出された声は低く、獣の唸り声のようだったが喜蝶にはそうは聞こえなかった。 「できるんですか?」  鼻で笑うように返してやると、運転手の男はぎりりと眉尻を釣り上げる。  

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