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君に捧げる千の花束 24

「出来ねぇと思ってるのか」  腹の底から冷えるような声に本能的な怯えが湧き上がる。  その眼光の強さが、男の乗り越えてきた修羅場の数を喜蝶に教えた。  睨み上げられる居心地の悪さにこのまま車を降りたい気持ちになりながら、直江社長が向かったビルの方を指差す。 「できないですよね?」  男は何を指さされたのか怪訝な顔をしていたが、目の端にとらえた影にはっと体をこわばらせる。  ビルの入り口で腕を組み、車を眺めている直江社長を二度見して……男は「シートベルトちゃんとしろよ」と呻いてから車を発射させた。  借り上げのマンションと言われて期待していたわけではなかったが、連れて行かれた先は事務所ビルの近くだった。  はっきりとわかるほどの築浅に、きちんと管理人もおり、オートロックに……一見すると問題ないように思えたが、部屋に案内されて一目で一番の問題があることに喜蝶は気がつく。 「あっ……え、もしかして……」 「シェアハウスな。それくらい我慢しろ」  玄関に並べられた靴、明らかに生活感のあるキッチンやリビング……  思わず案内してきた運転手の方を向き直ると、めんどくさそうにあくびをしているところだった。 「まぁ言葉が足りないのは嘘やねぇからな、お疲れさん」  ひらひら と手を振り、男はなんの説明もないままに帰っていってしまう。 「……は? どうしろって言うんだ…………いい加減すぎるだろ」  閉まるドアに隠れていく背中についごちたが返事は返らない。  聞こえてなかったのか……それともあえて無視されたかだ。  今日から住めと言われた場所だとしても、先住がいる家を好き勝手に歩き回る気にもなれず、居心地の悪いリビングを見渡した後で吐き出し窓に近寄る。  何階だったか……と思い出しながら、建物の向こうに見える景色を見つめ…… 「あ、病院」  思わず窓ガラスに縋った。  薄い透明な隔たりがもどかしいと感じながら急いで窓を開けて下手んだへと飛び出す。  ネットの張られた向こう、遠くに見えるその建物を幾度も確認し、そこが薫が入院している病院だと確信して…… 「  ――っ」  つんと鼻の奥が痛んだ。  申し訳なさと、会いたさに……ネットを掴んで「ごめん」と呻いた。  『耐えられている』  薫の母親はそう言った。  罪悪感に耐えられている内? 「…………それとも、生きていられる内?」  自分で口に出しておいて、震えが止まらなくなった。  懸命に罪悪感だ と言い聞かせてはいたが、須玖里が直接尋ねてきたことを思えば薫の状態が本当にギリギリなのだと言うことはすぐにわかる。

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