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君に捧げる千の花束 25
風の冷たさ以外が原因の震えに立っていられず、よろけるようにして室内へと戻る。
「 ――――っ」
見知らぬ部屋に入ることに慣れたはずだったのに、今は心の隙間に忍び寄ってくるようなナニかがいるような気がして、喜蝶はふらつきながら再びベランダへと出ていく。
遠くに見える薫の入院している病院と……それから、背後にある馴染みのない他のαのいる部屋と……
「ネットがなかったら、飛び出せたのに……」
前にも後ろにも進めず、喜蝶はその場で膝を抱えてうずくまった。
「じゃあ、いつも通りのものをお願いします。はい、部屋は変わっていないと思います」
その言葉を言い終わると同時にリビングの扉が開いて二人が話しながら入っている。
喜蝶も緊張していたが、二人はリビングに立つ喜蝶を見て飛び上がりそうになった。
「不審者⁉︎ け、けいさ………………」
「違うって! 中井さんが言ってた新入りだよ」
「あ! 新入りか!」
オレンジ頭の方が自分は御剣ユータだと紹介する。
もう一人の黄緑色のメッシュを入れた方は遠坂ユーリだと言い、ここで後もう一人とシェアして暮らしているのだと説明をしてくれた。
「もう一人は、そいつが帰ってきた時に紹介してあげるね」
「……は、い」
そろ と盗み見るように見た二人は何度もテレビで何度か見た顔だ。
いや、芸能人に興味のない人間がわかる程度には見知った顔だった。
「LoveNavigate」という三人グループの内の二人。
「……揚場、喜蝶、です」
この三人がいるということは、もう一人は海原コーエイということだろう。
せめて一言だけでも情報を伝えておくべきだったんじゃなかろうかと、喜蝶はあの運転手の男を脳裏で恨む。
「しばらく雑用係です、よろしくお願いします」
「雑用⁉︎ すぐにレッスンに入ってオーディションじゃないの⁉︎」
ユータにキンキンと耳に響く声で叫ばれて、反射的に耳を塞いでしまった。
その華奢で小さな体のどこからそんな声が出て来るんだと、鼓膜が麻痺したせいでクラクラと目が回る。
「はい……自分は、まだよくわかっていないので」
「ええー?」
そういうとユーリはパーソナルスペースを無視するかのように喜蝶にずいっと近づく。
間近で見ると、ますます頭が小さいことに気がついた。
鏡で自分を見て、自分ほど人目を引く人間はいないだろうとうっとりする趣味はない喜蝶でも、目の前のアイドルは別格だとわかる。
使い古されたような「頭ちっちぇー! 足なっげー!」と言いそうになった自分を慌てて律するしかなかった。
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