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君に捧げる千の花束 26

 ユーリは喜蝶の顔を意味ありげに覗き込んだ後、小悪魔のようにふふ と可愛らしい笑みを漏らした。 「緊張しなくても、俺は他に部屋を持ってるから滅多に帰ってこないし、ユータだって仕事忙しいもんね?」 「……ん、忙しいからあんま帰ってこないよ」  ユーリに言われてコータは少し恥ずかしそうに頷き、「今日も着替え取りに来ただけ」と言って自分の部屋らしきドアを指差す。 「そ……なんですか?」 「だから、シェアなんて言っても滅多に顔合わせないよねぇ。だから、散らかさないこと、汚さないこと、人の部屋に勝手に入らないこと、これがここのルールかな」  一応、各部屋には鍵もあるから……と、コータはリビングの引き出しから鍵とカードキーを取り出してくる。 「他に聞きたいことがあったらもう一人に聞いて!」  そういうと二人はそれぞれの部屋に駆け込んでいき、バタバタと服や荷物をまとめているようだった。  もう少し色々聞きたかったけれど、尊臣から何か情報が引き出せたらすぐにここからはいなくなる予定だし……と、喜蝶は名札に何も書かれていない部屋のドアの前に立つ。  部屋の中は……正直、狭かった。  大きめのクローゼットはあったが六畳あるのかないのか……端に置いてある畳まれた布団を見て、今日はゆっくりと布団で眠ることができそうだと胸を撫で下ろす。 「じゃあ俺たちはもう出るから! 木田さんの番号知ってる?」 「はい。知ってます」  そう返事をすると、ユーリは頷きながら出ていってしまった。  追いかけるようにコータもいってきます! と飛び出していく……その一分一秒を惜しむような動きは、それだけ彼らが忙しいんだと思わせる。 「……とりあえず、尊臣に会えるのは明日か」  今日会った時にもっと話を聞くことができればよかったが、実際に会った尊臣は思ってもみなかった性格をしていて……喜蝶は正直、苦手だった。  薫のためとはいえ、尊臣と仲良くならなければならないことを考えるとつい溜息が漏れた。  荷物を預けていたコインロッカーから数少ない荷物を出す。  かなり大きなロッカーの奥に立てかけてあるのは、凹みが多数ある金属バットだ。 「…………」  尊臣と絡む前に、一人……話を聞いておくか と、喜蝶はそのバットに手を伸ばした。  しっとりと手に馴染む感触と、表面には拭いきれなかった黒い汚れが残っているのがわかる。  コンコン と地面をそれで叩いてみて、問題がないことを確認してからギターケースに入れて歩き出す。  このケースが実はとても実用的なものだと感じたのは、最初にバットを持ち歩いた時だった。  バットだけじゃなく、縄も持っていたものだから職質されてしまうと逃げることが難しいのだと、知った。  

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