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君に捧げる千の花束 40

   軽く言い合いながら尊臣の後ろから出てきたのは華奢で小さな妖精だった。  ……いや、シフォンのように重ねられたふわりとしたドレスに、緩やかにウェーブのかかった髪、溢れそうなほどキラキラとした愛らしい瞳をしたΩだ。  まるで絵本から抜け出してきたかのような、そんな雰囲気で、二人で並ぶと美男美女のカップルだと自然と思ってしまう。 「アゲハさん! 俺の婚約者の円しゃん! こう見えて抑制剤の研究員なんだ」  目の前に円を突き出されて……喜蝶はレモンキャンディーを舐めた時のような味が舌の上に広がるのを感じた。 「揚場です。この度、新しく尊臣さんのマネージャーを務めることになりました。お話はよく聞いていました、こんなに美してくて頭脳も明晰なんてすごいですね」  定型文でどこもおかしいところはなかったはずなのに、円は少し引っかかるような顔をしてから苦笑いをする。 「メイクさんが頑張ってくれたから」 「そんな謙遜されなくても……」  現に円は尊臣の横に立っても遜色ない美しさでパーティー会場の視線を集めていた。  それでも喜蝶の言葉に居心地悪そうにする姿に、尊臣はサッと割って入る。 「そういえば、威兄と朝兄に紹介しようかと思うんだけどー?」  会話を切り上げさせるためだとわかっていても、心臓が一回、大きく跳ねた。  兄、それも二人も紹介してもらえる……三人いる内の二人。……と、言うことは確率的にはあの犯人の可能性が高い。  服の下でツゥっと汗が流れていく感覚がした。 「あそこなんだけどー……ほらいた! めっちゃ人に囲まれてる人!」  人垣だけで言うなら、主役の尊臣よりも遥かに多い。  製薬会社のCEOとその弟であり秘書の二人だ。機会があれば繋がっておきたいと思う人間も多いだろう。  末弟の婚約パーティーと銘打ってはいるが、その実は権力者たちの顔合わせと言う様子だった。 「もう……ああなるから、こぢんまりしたいって言ったのに!」  珍しく尊臣は腹を立てながらずんずんと二人の方に歩いていく。  慌ててその後を追いかけて……αの群れの中に入るせいか、喜蝶の口の中は刺すような苦味で一杯になる。 「威兄! 朝兄! 新しいマネージャーさんを紹介するね!」  そう言って人をかき分けて中心まで行き喜蝶の方へと振り返ったとたん……喜蝶はめまいを覚えて視界が揺らいだのに気がついた。  メガネの奥の双眸を一度深く閉じ、それからゆっくりと開くことで乗り越える。  目の前にいたのは尊臣とよく似た青年だった。  尊臣の表情をもっと真剣にさせたような顔立ちで、長男らしく厳しく融通の利かない雰囲気を醸し出している。

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