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君に捧げる千の花束 45

 知らず知らずのうちに胸に手を当てながら、じっと奏朝を見つめると気弱そうな瞳がゆらりと揺れる。 「……アゲハさんは、正臣を探してらっしゃるんでしょうか?」  問いかけたのはこちらだったのにさらに問いかけで返されて、居心地悪いままにぎゅっと服を掴んだ。  自分自身が思っている以上に跳ね上がっている心臓の音に邪魔されながら、頷くべきかそうでないのかを逡巡する。  尊臣は正臣と疎遠のようだった。  むしろ奏朝の方が直接的にやり取りをしていたのだから、正臣と出会いやすいのは奏朝だ…… 「…………私が、お二人を見かけたのは偶然じゃないんです」  唇を濡らすように唇を軽く舐めると、慎重に言葉を選びつつあの日に自分がそこにいた理由を話した。 「後藤さんって方が、電話で人を襲うって話をしていて……」 「後藤?」 「じほ……正臣さんと同じ大学だった方なんですけど」  奏朝は曖昧な笑顔を見せて続きを促すように頷いてみせる。 「その人が、電話で……人を襲うって、話してて」 「…………」  じっと直向きに見つめられて居心地がさらに悪くなっていく。  潤むような黒まっすぐな瞳はやはりどこか薫を思い出させ、喜蝶の脳裏に「また嘘を吐いて、ダメでしょ」といつも叱りつけてくれていた言葉を思い起こさせる。  関心のなかった両親に代わり、喜蝶を気にかけて嗜めてくれていたのはいつも薫だった。 「どうしてその情報を?」 「たまたま……ファミレスで聞こえてきちゃって。大きな声で電話してたから……」  後藤に時宝から電話がかかってきたことも、ファミレスで後藤が電話をしていたことも事実だ。  まったくの嘘ではない。   喜蝶は虚勢を見破られないように胸を張って腰に手を当てた。 「もし本当だったら人を襲う計画ですから、止めなくてはと思ったんです」 「そうだったんだ」  そう言うと奏朝はふとまつ毛を伏せた。  身長差のある喜蝶からは頬に落ちるまつ毛の影が濃くなりすぎて……うまく表情が読み取れない。  怪しまれているのだろうか……と、喜蝶はヒヤリとした胸の内を誤魔化すように、拳を作る。 「オレ……私は、聞いた以上はそうするべきだと思ったんです。確かに奏朝さんとは面識はなかったですが、人が危険って聞いて『そうなんだ』で終わらせるには後味が悪すぎます」  なんとか自分が奏朝を心配してあの場にいたのだと説明しようとする。  自分は貴方の危機に心配して駆けつけたのだと印象付けるために、必死に言葉を紡いだ。 「もし何もなければ帰ればいいだけだったし……」  実際、一人だったからどうなのかはわからないけれど、正臣は奏朝を呼び止めて入り口で一方的に怒鳴っただけで暴力らしい暴力や、無理に連れ去ろうとした様子はなかった。  

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