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君に捧げる千の花束 46

 それだけに喜蝶は、わざわざ人に連絡してまで兄に会う理由というのがわからなかった。  あの電話で正臣は「手伝え」としか言わなかった、それは録音対策のためだとばかり思っていただけに……二人の間に何か確執があるのだ と、萎れたように肩を落としていた奏朝を見つめる。  奏朝はパッと顔を上げると、やはり曖昧な表情で笑った。 「アゲハさんは優しい方なんですね。兄弟の諍いに巻き込んでしまったのは申し訳ないです」 「いえ……何もなかったのでよかったです」  喜蝶はにっこりと笑顔を貼り付けながら……ここからどうやって目の前の人物と連絡を取り合うべきか、思考を巡らせる。  尊臣とは年齢も近いし、会社と言う繋がりがあった。けれど奏朝とは年齢も離れているし、相手は社会人になって何年も経つような人だ。  趣味を知っているわけでも意気投合しているわけでもないこの状態で、なんとか……と、喜蝶は唇を引き締めた。 「もしよければお礼をさせていただけませんか?」 「えっ⁉︎」 「弟が何か考えていたのは確かでしょうし……そのお礼と、尊臣がこれからご迷惑をかけてしまうので、そのお礼です」  ふわりと柔らかく微笑むと、年相応には見えないほどあどけない。  そしてやはり……薫を思い起こさせる。 「尊臣が何かやらかした時にご連絡もいただきたいですし、今後も連絡が取れるように連絡先を伺ってもよろしいですか?」 「っ!」  ふる と震えそうになった手を握り込むと、汗でぬるりとした感触に触れた。 「れ、連絡先ですか?」 「末っ子がお世話になる人だし、あの子が懐くんだからいい人なんだと思うし……あ、いい人でしたね」  小さく弾けるように笑う姿に、手の汗がますます量を増やしていく……  嬉しい申し出だった。  自分が望んでいると通りに奏朝の連絡先を手に入れて、会う約束までできたのだから……けれど、順調すぎるからだろうか? この申し出に飛びつきたい衝動はあるのに体がうまく動かない。  一歩が、踏み出せない何かに遮られている感覚に、喜蝶は続ける言葉を言い出すことができなかった。 「あ……今日会った人間に言われても戸惑いますよね。すみません、助けてもらったからってちょっと距離感おかしいですね」  「尊臣のこと言えませんね」と苦笑する奏朝を拒絶する理由なんてない。  むしろ連絡先を交換してなんとか正臣の情報を探り出さないといけないのに……  干上がった喉で、返事をためらっていると奏朝は肩をすくめた。 「でしたら、尊臣と一緒に食事なんてどうですか? 三人で少しお話できたらと思うので」  奏朝は食い下がるようにいい、柔らかな笑みを浮かべてみせた。

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