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君に捧げる千の花束 50
押しつぶされそうなほどのプレッシャー。
冷たく見えても威臣はαの威圧感を抑えていたのだと、喜蝶は正臣とよく似た顔を思い出しながら思う。
「は? 犯罪?」
正臣は鼻で笑うと、奥にいる繁田を見やり、それから喜蝶を見下ろした。
「アレ は、合意だろ?」
「は?」
「向こうが誘ってきたから、『いいよ』って遊んだけだろ?」
「さそ……」
それは、αの誘引フェロモンあっての話だろう と口から出かけた言葉が出ない。
叫んで、胸ぐらを掴んで、殴り倒し、バットで去勢して、這いずり回せて謝罪をさせたいとずっと思ってきた。正臣に出会ったらどうするか、それをこの数年ずっと脳内でシュミレートしていた喜蝶は、今この瞬間に何をすればいいのかはっきりとわかっているはずだった。
なのに、どうしてだか体が震えて言葉は途切れ途切れな音をニ、三こぼすのが精一杯で……
自分ですらすくんでしまうほどの圧倒的なフェロモンを出されて、Ωや……薫のようなβに逃げ道はない。
すぐに揮発してしまう誘引フェロモンの使用を立証することは難しい。
逆に、映像を撮られてしまえば、被害者が自分からフラフラと近づいていっているように見えるだろう。
ファロモンを使われる限り、現行犯でなければそれを取り締まることはできない。
「 そ、 な、誤魔化しで、はいそうですかなんて! 言えるか!」
喜蝶は傷のできた唇を噛み締めながら一気に立ち上がると、勢いのままに正臣に拳を振り上げる。
「はは! マジかよ、繁田。お前こんな喧嘩弱い奴にやられたの?」
正臣は大きく動くこともなく、わずかに首を傾げただけで喜蝶の動きをすり抜けてしまう。
たたらを踏んで倒れそうになった喜蝶はなんとか踏ん張り、拳を握る手に力を込める。
「お前は嫌がる奴も襲ったはずだ! そういった奴らでお前を訴えれ ば 」
光を弾かない深淵の両目。
喜蝶は思わず背筋を駆け抜けた怖気に震えて壁に背を預けた。
「そんな奴、一人だっていなかっただろ?」
にやりと得意そうに笑った正臣に、喜蝶が飛びかかろうとしたん瞬間。
「 ――――被害者の方には口止め料をお渡ししていますから」
澱んだ廃墟の空気を切り裂いたのは穏やかな声だった。穏やかだったけれど、はっきりと堂々と正臣の気配に怯まない力強さがあった。
正臣はその声を聞いた途端、盛大なため息を吐いてバンザイとばかりに手を挙げる。
廃墟のギィギィとなる床を優雅な足取りが歩いていくる。
細い容姿はΩかβを思わせるほど華奢だった。
こちらに歩いてくると、足元からゆっくりと明かりが照らしていき……
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