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君に捧げる千の花束 52

 たったそれだけの動作で奏朝は正臣の動きを止める。  正臣は小さく唸ったきり……何か言いたそうにしながら喜蝶を横目に睨んだ。 「すべて自業自得だ」 「は? なんだと……」  奏朝は喜蝶の手を握りしめる力を強めながら、まっすぐに顔をあげて正臣を見返す。  その横顔は身内……それも弟に向けるにはあまりにも高潔すぎて……正臣の犯した罪に対してのスタンスを言外に物語る。  喜蝶の汚れを払うと、奏朝はそのまま何事もなかったかのように手を引いて歩きだした。 「っ……時宝さん……」 「しっ」  顔を向けずにひそめた声で告げると、奏朝は振り返りもせずに喜蝶を連れて廃墟の外へと出る。  後ろを振り返り……正臣が追いかけてこないことを確認してから、「はぁっ」と大きな溜息を吐いてみせた。    先ほどまでの廃墟の中で、正臣を前に背筋を伸ばしていた奏朝の姿はそこにはなく、へたりと地面にしゃがみこんで「よかったー!」と明るい声をあげる。 「君に怪我がなくてよかったよ」 「ぇ……あ、はい、ケガは……」  ない。  けれど、復讐をしそびれた と喜蝶は目を細めて廃墟を振り返る。  やっと見つけた犯人がすぐそこにいる。  奏朝を先に帰らせて、急いで廃墟に戻れば繁田も正臣も始末できる。  できる。  できる。  ざわりと血が沸騰するような気配に唇が歪みそうになった瞬間、背中をぽん と叩かれた。 「アゲハさん、もしかしてまた正臣のところに戻ろうとしている?」 「……」 「君はアルファで、僕の言葉なんてって思うかもしれないけれど、聞いて欲しい。正臣は運命から生まれた非常に優性の強いアルファだ、そんな正臣に対抗できる人間なんて限られてる」 「……だから? それで、好きな相手を強姦して無理やり番になったのを大目に見ろと?」  喜蝶の言葉に、奏朝ははっと表情をこわばらせた。  先ほどの喜蝶の言葉を慎重に嚙み砕き、理解できていない部分がないようにじっくりと咀嚼しているかのようだった。  「正臣が……噛んだ……」  口に言葉を乗せ、項に触れてやっと理解できたのか、奏朝ははっと喜蝶を見上げた。 「あの子が? ……そ、そんな報告は……出された被害届はすべて僕にくるようにしてあるのに……」 「あなたが何を言っているのか、苛立ちすぎて知りたくもないですけど、その件の被害届は時宝には出されてない」    奏朝は「え?」と首を傾げて……理解したのか、さっと顔色を悪くした。 「時宝には?」  喜蝶に問い直す前にすでに答えは出ていたのだろう、奏朝はあきらかにうろたえていた。

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