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君に捧げる千の花束 53
「もしかして、アゲハくん。君は……」
「…………」
喜蝶は返事らしい返事をしないまま奏朝から視線を逸らした。
「事実との相違があるといけないから話を聞かせて欲しい」
「…………あんた、無神経だな」
そう返すと、喜蝶はじわりと痛みを覚え始めた腹部に手を置いてよろける。
正臣に蹴り付けられた部分が、気が抜けたからだろう……今になって傷み始めてきていた。
「セカンドレイプってこう言うことなんだろうな」
「そ、そんなつもりはありませんっ! 僕はただ、考えの通り……貴方が、濡れ衣を着せられているのなら……」
「着せられてなんかない」
その一言を絞り出し、喜蝶は腹を押さえて歩き出す。
「ちょ アゲハさん⁉︎」
進んで汚名を被っているだけだと言ったら奏朝がどう言った表情をするのか、見てみたい気分にもなったが、喜蝶は小さく肩をすくめただけだった。
「待ってください! あなたは正臣の被害者なんでしょう?」
「オレじゃない。割り込んできたことに関しては何も言いませんから、もう放っといてもらえますか?」
喜蝶は目の前の奏朝よりも、思わぬ形で対面してしまった正臣への対応を考えるのに必死だった。
蹴り付けた時の身のこなしを思い返すと、バットで殴ればどうにかできると思っていたのは甘い考えだったようだ と、喜蝶は顔をしかめた。
「どこかお怪我されたんでしょう⁉︎ この方をうちの病院にお連れして!」
有無を言わせないはっきりとした言葉で奏朝はそう言うと背後を振り返る。
そうするとどこに隠れていたのか……黒っぽいスーツを着た男たちがゾロゾロと出てきて、喜蝶の腕を両方から掴む。
見ようによっては怪我人を介抱しているように見えなくもない姿だったが、こもる力は喜蝶を逃すまいと万力のような力だった。
数年前のことを思い出しながら、病院は苦手だ と喜蝶は呻く。
隙を見て逃げ出そうともしたが、きちんと訓練されているのだろう、奏朝が迷子になっては大変だから と言った言葉で数人がピッタリと寄り添うように側につくことになった。
「…………」
トイレ と言ってみる手もあっただろうが、この男たちの忠誠度を見るに、個室の中まで入り込んできそうだった。
「オレ……怪我はしてません」
「けれど正臣に蹴られていたでしょう」
そういう奏朝に、喜蝶はこの人はどこから見ていたのか とぼんやりと考える。
正臣と同時? それとも繁田と? もちろんそれ以外のタイミングもあり得るだろうけれど……喜蝶はどうしてだか、この人は最初から様子を伺っていたんじゃなかろうかという確信を持っていた。
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