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君に捧げる千の花束 54

 手際が良すぎる。  喜蝶は、すべての違和感はそこに帰結するのだと、どこかに電話をかけ始めた奏朝を見遣った。  ほっそりとしたシルエットは武力で何かを行うような人間ではないように見えた……が、一声かければこれだけのボディガードが側にいるのだから、体を鍛える必要がないのかもしれない。  黒服達の向こうで軽く首を傾げながら携帯電話に向かって何かを話し……そして柔らかく苦笑する。  その気配。  喜蝶はやっぱり、その一瞬が薫を思い出させるのだと理解して、ぎゅっと唇を引き結んだ。 「…………お待たせしました、お医者様もこられるので診察室に移りましょうか」 「すみません、明日も仕事に出ないといけないので、ここまでしていただいておきながら、申し訳ないとは思うのですが、本日は帰らせていただきます」  サッと立ち上がった喜蝶を……奏朝はもちろん帰らせるそぶりは見せない。 「少し予定が前倒しになりますが、今からお食事なんてどうでしょうか? 尊臣も呼び出しますよ」 「尊臣さんは今日は朝から撮影が入っているのでご遠慮ください」  間髪入れずに返した言葉だったが、奏朝はそれを聞いて笑い出した。 「大丈夫。もう尊臣はこっちに向かっているし、明日のスケジュールの変更もさせたから」 「あんた……なんで……」 「そちらの事務所と繋がりがないわけないでしょう」  薄く笑う奏朝は、いい人の皮を少し剥いだような雰囲気をしていた。  ここまでされてしまうと、喜蝶にできることは素直に従うか、それとも決死の覚悟で周りの黒服達を殴り倒して逃げ出すか……ただ、逃げ出したところで、喜蝶の目的が正臣と知られてしまっている以上、居場所が見つかるのに時間はかからないだろう。  そう思うと、喜蝶は八方塞がりの視界に怯えるようにして項垂れた。 「もうすぐ、ここに尊臣がきます。きてから、君の事情を話しますか? それとも今のうちに話しておきますか?」  ……正臣との仲を、すれ違っているだけ と表現した尊臣。  きっと尊臣はまだ自分たち兄弟の繋がりを信じているからそう表現したのかもしれない。喜蝶は自分が尊臣の前で正臣がしたことを話せば、その糸よりも細い繋がりが千切れてしまうのだろうと言うことがわかった。  人の良心につけ込んだ、脅迫だった。  尊臣が裏表のない性格なのはほんの少し一緒にいただけでもわかることだった。悪く言えば単純、よく言えば純粋無垢。  その透明感が芸能人としての売りでもあるのだけれど、そんな尊臣を傷つけることを…… 「貴方は、尊臣を傷つけてもいいんですか?」 「僕は、時宝の暗部を纏めてきたんだよ」  奏朝は困ったように笑う。  

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