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君に捧げる千の花束 55

「それなら、あんたはあの男に首輪をつけるべきだった」  格好をつけて何くれと言葉を飾ったところで、家族の犯罪を見過ごしただけだ と、喜蝶は睨みつける。  「暗部を纏める」――その言葉の重みが、この男の細い肩にどれほどの業を背負わせているのか、喜蝶には想像もつかなかった。ただ、目の前の男が情という名の免罪符を掲げながら、平然と他人を地獄へ突き落とせる人種だということだけは、本能が理解していた。 「つけられるならつけていたよ。……でも、君もアルファなら気づいただろう? 正臣の  」  奏朝は記憶の中の何かに怯えるようにぎゅっと自分の体を抱き締める。  白い顔からさらに血の気を引かせながら俯く姿は庇護欲をそそる。喜蝶はそれが演技だろうと決めつけてはいたけれど……それでも拭いきれない薫の面影を見つけてしまい、強く出れないままに黙り込んだ。 「あいつの優性の強さは、兄弟の中でも一番だ。……さすが、運命が親なだけはある」  小さな苦笑。  そうするとさらに薫が困った時に浮かべる表情に似て…… 「運命?」 「僕と正臣は婚外子なんだ」  もっとも……と、奏朝は自嘲気味な笑みを唇の端に乗せた。 「僕は、父の子かどうかも怪しいけどね」  消え入りそうな声に、喜蝶は奏朝だけがβだったこと、それから兄弟の中で一人だけ名前が異質なことを思い出す。  その名前がβだから付けられたのか、それとも時宝の血を引いていないから付けられたのか……どちらかなのかを判断することは喜蝶にはできなかった。  けれど、奏朝が時宝の汚れ仕事を担っていると言うのならば…… 「君には申し訳ないけれど、僕には正臣を止める力はない。権力的にもバース性的にも……でも、あの子をこのままにしておけないのもわかっている。なんとかしないといけないことはわかっている」  くたびれ果てたように項垂れて傍に立つ奏朝に、喜蝶は一瞬慰めの言葉をかけようとした。   「……わかっているだけじゃ、何も動かないけどな」  グッと飲み込んだ言葉の代わりに棘のあるセリフを言うと、奏朝は苦笑を深めて「申し訳ない」と謝罪を口にする。 「運命の番から生まれた子供は他のアルファよりも優性が強い。あのフェロモンに逆らうのは僕には……並のアルファだって無理だ……」  消え入りそうな語尾を言い終わると、奏朝はぎゅっと手首を握る。  喜蝶は握り込まれる前、ほんの一瞬その皮膚に傷跡が残っているのを見た。 「あいつは嵐だ。過ぎ去るのをじっと待つしかできない」  傷を押さえた手がゆっくりと皮膚に食い込み、喜蝶の見ている目の前でゆっくりと肌に傷をつけていく。    

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