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君に捧げる千の花束 61

 とっくに薫の見えなくなった窓ガラスを見つめて、喜蝶のまつ毛が震える。  はっきりとした脅しだったが、喜蝶に抗うすべは何もない。むしろ薫のためだと言われるならば……忠告を訴える本能に目を瞑るべきだと、静かに理性が告げた。 「あんたの言う通りにする。だから、薫を助けてくれ」  それから と、喜蝶は昏い目を奏朝に向けて「繁田を連れてきてくれ」と呟くような声で続ける。 「もちろん。ちゃんと用意してるよ」  奏朝は正面を向いたまま、蕩けるような嬉しそうな笑顔を見せた。  「時宝正臣」  クロノベルグループのCEOである時宝威臣の二番目の弟であり、時宝征臣の運命の番との間にできた婚外子。  父親と同じ「まさおみ」と言う名前を貰った。 「…………」  奏朝だけが「臣」の字を付けられていないところを見ると、αとβの扱いの差や運命との子とそうでない子との差が一目瞭然だ。  喜蝶はその胸糞悪くなりそうな情報を顔を顰めながら眺める。 「長兄にそっくりだろう?」  奏朝は向いで優雅にコーヒーを口に運びながら言う。  写真で改めて顔を見せられて……なるほど と喜蝶は頷いた。廃屋の薄暗い中で見た時よりも、写真の中の男は長男の威臣によく似ている。  目を引くほくろがない分、どこか威臣よりも印象の薄い雰囲気な感じは受けるが、それでも血の繋がりをはっきりと見せていた。  同じ顔。  けれど威臣のような硬派さはなく、どこか薄暗い表情をしているように思える。 「正臣は大学を卒業後……」  奏朝はそれまで滑らかに喋っていた言葉を途切れさせ、困ったように微笑んだ。 「自分探しをしているんだ」 「花嫁修行でもしてるって言っておけばいいだろ」   喜蝶が鼻で笑うと、奏朝ははっとしたように目を見開き、口元に手を当ててふわりと笑いを漏らす。 「あはは! いいね、今度聞かれたらそう答えるようにするよ」 「…………」  困った苦笑から一転して華やかに笑う様子が薫とよく似ていた。 「それで? あんたなら何人でも荒事用の人間を用意できそうだけど? なんなら、薬だって使えるだろう?」  奏朝がボディーガードをつけているのはすでにわかっている。  そういった人間を雇うことができるのならば、正臣を力ずくで捕まえることもできるだろう。わざわざなんの格闘技も習っていない人間に助けを求めるのは納得がいかなかった。 「前にも言ったけれど、『正臣のフェロモンに対抗できる』ことが大事なんだ。それに……」  奏朝は携帯電話を喜蝶の方へと向ける。  そこには隠しカメラで撮られたらしい動画が流れており、飲み物に口をつけようとした正臣が手を止め、サッとカメラの方へ視線をやり、こちらに向かってくる瞬間で終わっていた。

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