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君に捧げる千の花束 63
「そんなことはどうでもいい」
その背景に何があろうと、喜蝶からしてみれば正臣はただただ行きずりの人間を強姦して頸を噛み、そして忘れ去るような人間というだけだ。
殺せるものなら殺したい。
けれどそれ以上に生かしておくことに利点がある。
ただそれだけの存在の過去なんて、知りたくもなかった。
「あんたは、いざとなったら邪魔をするんじゃないだろうな」
「……っ」
包帯に食い込む指先が答えだ と、喜蝶は冷めた目で見る。
この目の前の男は確かに正臣に関して向いている方向は一緒だし、薫に便宜も図ってくれるだろう。
けれど、決定的な味方ではない。
正臣が情に訴えたら? ずる賢く懇願するテクニックを持っていたら奏朝はそれを受け入れてしまうかもしれない……いや、受け入れてしまうだろう。
喜蝶は、その不安定さが信じきれなかった一因なのかと、自分の中にあった踏み切れない部分を定義づける。
「……大丈夫だよ。一番に考えなきゃいけないのは父から僕たちに譲り受けたクロノベルなんだから」
だから、兄弟と言えども切り捨てる。
「…………わかった。じゃあ、あんたが裏切ったら、クロノベルの御曹司がレイプ魔で、頸を噛んで捨てるゴミクズだって公表させてもらう」
「そんなことし 」
「その情報を、人に預けておく。俺に何かあったら公開してくれる」
「そんな……こと、しなくとも、僕は……」
僕は?
喜蝶は続きを待ったけれど、奏朝は項垂れたまま何も言えない様子だった。
流石にどこにいるか、何をしているかは把握することができているようで、奏朝からは携帯電話に事細かく正臣の情報が送られてくる。
とはいえ……今はマネージャーとして尊臣に接しているところなのだから、返事をすることもなかった。
『まずは行動パターンが知りたい』
勘がいいそうだから、待ち伏せなんてできないだろうけれど……と、喜蝶はスケジュール帳を開きながら思う。
けれど、行動パターンが何もわからないよりはマシだった。
まだ何もいい案が浮かばない現象、情報を集めて過ごすしかない。
「この前、奏朝さんに色々教えていただいたんですけど」
「朝兄に⁉︎ 朝兄はすごく勉強ができて、優しいし面倒見がいいし、優しいよねぇ」
優しいを二回言ったことを注意するか迷ったが、こう言ったところがファンに受けていると言われたことを思い出し、喜蝶は口を引き結んだ。
喜蝶の様子を気にかけることもなく、尊臣は奏朝がどれだけ自分に優しいかを自慢げに語っていく。
「奏朝さんは面倒見がいいんですね。じゃあ正臣さんともよく遊んだんですね」
「ぁ…………あ、あー……うん」
良くも悪くも、尊臣は素直だった。
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