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君に捧げる千の花束 64
「あは……ぅーん。朝兄とはよく遊んでたみたいだけど……小さい頃は家がバタバタしてたから」
兄弟の年齢を聞けば、正臣と尊臣は一年と離れていない。
本妻からしてみればバタバタなんて物ではないことは簡単に想像ができる。
「威兄がよく遊んでくれたよ」
そう言ってえへへと笑う尊臣は呑気な様子だった。
喜蝶から見ても複雑な思いになるような兄弟関係の中で育ったというのに、尊臣はどうしてこうものんびりしているのか……
「尊臣さん、きちんと台本は覚えてくださいね」
「ぅ、はぁい」
台本をそっちのけで話に夢中になろうとしたのを押し留めると、尊臣はちょっと唇を尖らせて「聞いてきたのはアゲハさんなのに」と呻きながら台本に視線を戻す。
どうしてもやりたかった舞台だと言っていたから、少しきっかけを与えただけで尊臣は驚くほどの集中力を見せる。
瞬きすらも忘れているんじゃないかと思える真剣な横顔は、尊臣が役者という職に対してどれほど真面目に取り組んでいるかを教えて……
以前に、演じることが好きなのかと喜蝶が尋ねた時に、「演じていればすべてが円満だから」と答えていた。
複雑な家庭に生まれ育ち、母親の違う年の近い兄弟たちと暮らして……末っ子ながらに苦労したのかもしれなかった。
二人を殴りつけたせいで使い物にならなくなった金属バットを新調し、大きく振りかぶって感触を確かめる。
奏朝からの情報では奇襲には勘付かれると思って間違いなさそうだった。
だからと言って正面からいくには……
「相良流とか言ったか? サガラ……しん? 流?」
どちらも相良の名前を冠してはいたが、お家騒動で別れて名前がいくつかあるようだった。
その一つである相良心流で格闘を学んだのだという。
兄弟全員が護身術に困らない程度の習熟度だったのに対し、正臣だけはのめり込むように通い続けて腕を磨いたのだと、経歴に書いてある。
結局その『習い事』も、派手な喧嘩をして破門にされておしまいだったようだ。
その後は時宝の力でやらかしたことを揉み消しながら、表面上は毒にも薬にもならない学生生活を送ったとある。
「そして今は花嫁修行か。いいご身分だな」
奏朝からの情報を元に、近くないビルの上から双眼鏡を覗く。
数人で騒ぎながら飲み屋から出てくる姿を見――――――――
「っくそ」
本来ならそんなことをする必要はないのかもしれない。けれど、正臣は確かに喜蝶の方へと視線を投げた。
酒が入り、持ち上げられて上機嫌だというのに……それでも正臣は、自分に向けられる敵意に気づく。
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