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君に捧げる千の花束 66

 人形のように好きのない整った顔に差す一筋の人間味に、奏朝は興味を示したようだった。 「……好きじゃない」  重く開かれた口から出た言葉は奏朝の期待したものとは違ってそっけない。 「本当に? 君の献身は、好意以外の何者でもないように思えるけれど?」  「――――愛してる」 「……」  奏朝はその言葉がわからなかったか、もしくはうまく聞き取れなかったかのように曖昧な表情で首を傾げる。 「ああ、好きは見返りを求めるけど、愛は求めないって言うからね」  理解した とばかりに出た奏朝の言葉に、喜蝶は何も返さないままにじっと視線を送り…… 「求めないわけじゃない。今でも薫を番にしたいし、触れたいし、あんな男は捨ててオレと生きて欲しい」 「? ……それなら、ありのままのことを話せばいいだろう? そうすればアゲハさんが彼に会えないなんてことはなくなる。むしろ、冤罪を被って辛酸を舐めた生活を送った分、同情してもらえそうだ。その部分を突けば君が彼の隣に立つのは容易だ」 「…………」 「これだけ献身的に行動していたんだ。彼の仇を取るために君が二人にしたことを話して、きちんと彼に知らせるべきだよ。それに、彼の心労の中には君に嘘を吐かせているってこともあるんじゃないのかな? 彼だって本当のことを話して楽になりたいはずだよ」  つらつらと言葉を紡ぎ、そうじゃないかな? そうだと思うよ? 愛しているなら余計、彼の傍にいたいだろう? と言葉を続ける奏朝に、喜蝶は冷ややかな笑みを送った。 「あんた、人に愛されたことがないんだろ」 「…………は?」  喜蝶は広げた薫の写真を丁寧にまとめてから奏朝の方へと押し返す。 「愛は見返りを求めないと言ったろ?」 「でもアゲハさんは求めないわけじゃないって……」 「求めない」  あっさりと出たのは先の言葉を真っ向から否定する言葉だった。  いつも柔和な表情をしていた奏朝はその不可解さに流石に眉間に皺を寄せる。 「そうなるといいと願っている。でもその願いは叶わなくていい……いや、むしろ叶わない方がいいと思っている」 「どうして……っ、ああ、君にも運命がいるからか。いざ運命の番が登場したら、彼の扱いに困ってしまうものな」  合点がいったとばかりに笑う奏朝を見返す喜蝶の瞳は、いつものガラス玉のような硬質なものに戻っていた。 「運命なんてどうでもいい」 「…………は?」 「運命なんかより薫の方が大事だ」  そう言い切ると喜蝶は立ち上がって面倒そうに首を鳴らす。 「そ、そんなはずないよ。君はアルファで、運命のオメガを見つけたら彼のことを忘れて飛びつくに違いない!」

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