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君に捧げる千の花束 69
冷ややかな言葉は奏朝の心配をしてはいなかった。
苦しそうに体を折り曲げ、フェロモンでの脅し、慣れない喫煙と言う衝撃に打ちのめされた奏朝にそれ以上の言葉をかけない。
「っ ……、ぅ……フェロモンが……」
顔を涙でぐしゃぐしゃにしていたが、奏朝はそれを拭うことすらせずに呆然としている。
初めてこのタバコを経験した時の自分と同じ態度だ と、喜蝶は小さく笑った。
「君……アゲハさん! これは一体! クロノベルでも消臭に重きを置いている商品や研究だってあるのに……っこれは、素晴らしい!」
わっと目を輝かせ始めた奏朝に向けて、喜蝶はふっと紫煙を吹き付ける。
「――っ! こ、効果はともかく……ゲホッ、臭いのキツさと煙いのはいただけないな」
奏朝は繰り返し繰り返し咳き込み、咳払いを繰り返し、最終的には水差しを見つけて喉を潤していた。
「あいつのフェロモン対策はこれを使う」
「それもいいけれど……これは一体、何かを教えてもらえないか? これがあれば今後の研究にも……」
喜蝶は興味なさげに奏朝の言葉を聞き流し、手の中のタバコを携帯灰皿に押し込む。
そうすると少し効果が薄れて……残滓のように消え切らなかった喜蝶の威嚇フェロモンが湧き上がってくる。
奏朝はそのことに気づいたのか、わずかに顔を青くして身を縮めるようにソファーの端へ逃げた。
「……っ」
「それで、対峙した時の対策はできたとして? クロノベルがしゃしゃり出れば、人がごった返す大通りで殴りかかってもなかったことになるだろ?」
「なりませんって」
奏朝は息苦しそうにネクタイを緩め、シャツの喉元に指を差し入れながら苦しげに答える。
「たとえ何かあったとしても、僕が押さえ込みますから」
「…………」
奏朝の言葉に、喜蝶は返事をしないまま冷ややかな視線を送り……
「正臣のその後は決定したのか?」
「……ええ」
奏朝はもう咳き込みを止め、神妙な顔をして正臣を捕獲できた後のことを語り始めた。
「製薬会社の立場を最大限に使わせてもらいます。弟は会社の持っている治験対象用の病院に収容します。一般病棟ではない、バース研究用のフェロモン管理のされている特別隔離病棟です。外部アクセスは遮断されている、クロノベルが誇る鉄壁の要塞です」
「それで?」
「情報遮断、面会制限、投薬による逃亡意欲のコントロールをします。…………建前上は、運命から生まれた子供のデータを取るためです」
理路整然としていた言葉の中に急にふわふわとした言葉が入り、喜蝶は怪訝な顔をした。
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