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君に捧げる千の花束 70
「正臣は運命との子供です。バース性の間でも非常に珍しい存在だ、あなた同様。故にそこに正臣がいるのはアルファ抑制剤の臨床データや運命のオメガとそうでないオメガとの子供の差なども研究対象と言う理由づけができます」
「…………拘束をして、その理由を製薬会社のためのデータ収集にした と?」
「ええ、そうすれば、アゲハさんがご所望の正臣のフェロモンを定期的に採取することも可能ですから」
その言葉に、喜ぶべきなのか嫌悪感を持つべきなのか、喜蝶は判断ができずに曖昧な表情を作るので精一杯だった。
薫の体調を整えようと思えば定期的に、正臣のフェロモンが必要となってくる。
それは……死ぬまで、だ。
つまり、奏朝が正臣を捕まえ、喜蝶の頼みで正臣からフェロモンを提供し続けてもらおうとすれば……一生、飼い犬でいなくてはならないと言うことだった。
普通の監禁でαを捉え続けるのが難しいことは、喜蝶本人が一番わかっていることだ。
αは、しようと思えばなんだってできる。
「薫の医療費の援助と定期的な正臣のフェロモンの提出さえしてくれるなら、オレは黙って正臣を捕まえる」
「はい、もちろん。僕たちはギブアンドテイクで成り立っているんですから」
優しげに微笑む奏朝の緩められた首元にさりげなく視線をやった喜蝶は、そのことに気づかなかった顔で視線を逸らした。
『不審がられずに、正臣に近づく方法を考えています』と言う奏朝を見下ろし、喜蝶はその返事をしないまままったく別の言葉を紡いだ。
「あんた、――――薫に似てるな」
「え? 薫さんですか? ……はぁ? あんな若い子に似てるって言われると、若返ったような気になりますね」
小さく苦笑しながら照れる様子は……顔だけ見るなら似ていない。けれど雰囲気がそっくりなのだ。
「…………じっとしてろ」
「はい?」
奏朝はきょとんと喜蝶を見上げる。
最近よく話すようになったとはいえ、上から見下ろすような身長差と滲み出すαとしての圧迫感に……奏朝は獲物に狙われた小ネズミのように飛び上がって身を縮めた。
とん と壁に手を突かれてしまうと奏朝は喜蝶に囲い込まれるように壁に追い詰められ、どこにも逃げられない。
「アゲハ……さん?」
縋り付くような笑いを込めた声は、喜蝶に届いたのか定かではなかった。
不自然なほど黒く染められた黒髪と人形のような整った顔立ち、職人が硬質ガラスで作ったような美しい瞳。
それらがゆっくりと近づき、奏朝は逃げられない腕の檻の綻びを見つけようと素早く当たりを見回す。
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