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君に捧げる千の花束 80
力まかせに正臣の頸を締め上げながら、喜蝶はボロボロになった身体でもはや届かぬ薫への懺悔を叫び続けた。
正臣の顔が苦痛に歪み、どす黒く変色していく。
「っ ……ぅ、 」
二人の影は、まるでもう一つの生き物のように地面で蠢き、終わりなき憎悪をぶつけ合う。
「……っ、は、な……せ……!」
死を予感した正臣の指が喜蝶の頭髪に深く食い込む。逃れようとする必死の力が、喜蝶の髪を根元から引きちぎるようにして強く引っ張った。
ぶちぶちと生理的に嫌悪を催す音が骨を伝って響き、頭皮が剥がれるような劇痛が走って生温かい血が喜蝶の額を伝い落ちる。
けれど、喜蝶の腕は岩のように動かなかった。
「……離さない。お前が、薫にしたことを思えば……こんな痛み、なんてことないんだよっ!」
正臣は正気を失った獣のように、今度は喜蝶の腕の皮膚に指を立てて肉を抉った。
喜蝶の服の袖が破れ、剥き出しになった前腕に深い傷跡が刻まれる。肉が裂けて脂の混じった血が溢れ出しても、喜蝶はさらに腕を深々と正臣の喉仏に食い込ませた。
「薫は……もっと痛かったはずだ……! 誰にも言えず、誰にも頼れず、自分の体が自分のものじゃなくなる恐怖に、毎日、毎日……っ!」
喉を潰された正臣の声は、もはや意味をなさない喘鳴へと変わって……
酸素を求めて白目を剥きかけ、痙攣するように喜蝶の体を蹴りつけるが、喜蝶は骨に響く痛みに呻きながらも万力のような力で締め上げ続けた。
「お前がっ 」
髪をどれだけ引き抜かれても、腕の肉をどれほど抉り取られても、喜蝶の心を満たしているのは正臣への殺意以上に、薫を救えなかった自分への果てしない絶望と寂寥感への共感だった。
「返せよ……。薫の、輝いてた時間を返せ! あいつが笑って過ごせたはずの、明日を返せよっ!」
喜蝶の嗚咽混じりの叫びが、深夜の公園に響き渡る。
正臣の指先が空をかき、持ち上げる力も足りずに次第に弱まっていく。力強かった足蹴りが力なく地面を擦り、もがいていた指先が解けた糸のように滑り落ちた。
闇の中で重なり合った二人の影が、静かに、深く、地面へと沈み込んでいく……
皮膚に伝わる脈動がゆっくりと弱くなり、微かな震えとなり、……やがて何も感じなくなる頃、
「――――アゲハさん」
ポツンと問いかけてくるように名前を呼ばれて、喜蝶はよろけるようにして後ろに手をついた。
支えを失った正臣の体が重力に従って落ち、喜蝶の体の上へとすべての重さを放り出してくる。
力の抜けた人間の体の重さ。
「 っ」
ひゅう と喜蝶の喉が鳴る。
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