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ちいさな(※主観)智くんと、オレのプライド防衛戦 6
筋肉が多いからか体温も高くて、こうやって背中に手のひらを置かれるとじんわりとした温もりがして、心が癒されていく。智の手からは遠赤外線とかなんかが出てるって信じている。
じわじわと伝わる温もりに、αとしての矜持とかなんかそんな感じのはあっさりと溶けてしまう気がする。
「……龍成さん、大好きです」
降ってくるような低い声。
オレは智の胸板に顔を埋めたまま、小さく笑った。
「知ってる。でもオレの方が、余裕で惚れてるからな」
あの日、廊下で嘲笑っていた奴らに教えてやりたい。
こいつを抱くのに脚立なんていらない。
ただ、こいつがオレのために少しだけ屈んで、オレが少しだけ背伸びをすれば――そこには、どんなΩも与えることができない、最高の幸福が待っているんだと。
――そして、現実は非情だ。
智との甘い生活から一転、オレはリクルートスーツという名の戦闘服に身を包み、就職活動という荒波に揉まれていた。
「――――……御社の経営理念に深く共感し、ゲフッ」
面接官の、αフェロモンの威嚇によるガチ圧迫面接に思わず変な声が出る。
いや、それでも面接にこぎつけることができたら良い方だ。
成績優秀、スポーツ万能、おまけにαで顔も悪くない! 先輩たちの覚えもめでたく、人生イージーモードだと思っていたオレのプライドは、連日の「お祈りメール」によって粉々に砕け散っていた。
リクルートスーツなんて長く着ないよな なんて高を括っていたオレは、今ではくたびれたゴミのようだ。
「くそっ……今日もダメか。オレって、社会に必要とされていないアルファなのか……?」
トボトボと駅に向かう帰り道。すれ違う人々が、心なしかオレを嗤っているように見える。
あの日、居酒屋の廊下で智を嗤っていた奴らと同じ、薄っぺらな嘲笑。
智もこんな、世界のすべてが敵に見えるような状態だったんだろうか?
「智……智に会いたい。智の匂い嗅ぎたい。智の胸板に埋もれたい……!」
べそ と鼻がつんと痛んで涙が滲む。
斜に構えてしまったせいで、これから面接とか説明会とかで忙しくなるから、うちに来てもあんまりかまってあげられないかも なーんて上から話していた自分を呪いつつ、トボトボとマンションの中に入って……
智に会いたくて会いたくて仕方ないけど、情けなくて、惨めで、合わせる顔がない。
格好をつけて誰にも触らせないとか恥ずかしくないとか言葉を並べたけれど、就職一つままならない自分では智を守るどころか恥をかかせてしまうだけなんじゃないかって。
「……ぅ」
かろうじて縁で止まった涙を拭って家に入ろうとしたところで、鍵を取り出すより先に、ドアが内側から開いた。
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