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ちいさな(※主観)智くんと、オレのプライド防衛戦 7
「龍成さん。おかえりなさい」
そこには巨躯を少しだけ屈め、暖かな光を背負った智が立っていた。
ずず……って鼻水を啜ってポカンとしているオレに、ニコニコと柔らかな笑みが向けられる。
「忙しいってわかってはいるんですけど……ちょっとだけ、顔が見たくって」
智の親指と人差し指が作る「ちょっと」は随分と大きい なんてことを思いながらコクコクと頷いて返す。
今にも鼻が垂れそうになっているオレは、きっと普段とはまったく違う様子なのに……智は何も聞かなかった。すべてを察したように、ただ大きな腕を広げる。
「寂しかったから、ぎゅっとしてもいいですか?」
「……智……」
糸が切れたように、オレはその胸に倒れ込んだ。
ぎゅっと包み込まれて……ふかふかの筋肉に包まれると、理由もなく涙が溢れてしまう。
智の高い服に染み込んでしまう なんて考えながら、それでも縋り付くのをやめられないオレを、智はひょいと抱き上げてリビングのソファーに座らせてくれた。
「……ちは…………オレ……」
「……しぃー」
智はいつかオレがしたように、人差し指を立てて言葉を遮り、
「大丈夫ですよ。今は、何も言わなくていいです」
そう言って、智の膝の上にオレの頭をそっと乗せた。
驚くほど収まりよく、智の膝はオレの頭を支える形に馴染む。
心地よい支えと、心地よい温もり、心地よい柔らかさ、そして心地よい石鹸の清潔な匂い。
見上げると、視界を半分以上占領する胸筋。
そろりとそれに触れると、硬い筋肉ではなく、極上のふかふかとした柔らかく温かな筋肉にゆっくりと指が沈んでいく。
包み込まれたのは指だったのに、そこから伝わる高い体温がじんわりと身体中に染み渡ってくるようだった。
張り詰めていた神経が、その圧倒的な「包容力」という熱に当てられて、じわじわと溶け出していく。
「……オレ、ダメだった。アルファなのに、あんなにボロクソに言われて……フェロモンで突かれて、何も言い返せなかった。いっぱい面接の練習だって、答えだって暗記して、先輩たちの話も聞いて、講習にだって通って…………智との、大事な時間を削りながら、頑張ったのに…………自分の居場所すら見つけられねぇ……っヨワヨワのアルファなんだ……っ」
智の胸に縋りつき、オレは初めて人前で声を殺して泣いた。
αとしてのプライド、強者としての仮面。
そんなゴミみたいな重荷が、智の大きく温かな掌がオレの髪を撫でるたびに一つずつ剥がれ落ちていく。
「龍成さん。聞いてください」
降ってくるような低い声が、オレの耳に届く。
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