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ちいさな(※主観)智くんと、オレのプライド防衛戦 16

「こんにちは、いらっしゃい」 「あっ……あぁ……」  智越しに挨拶をされて、慌てて頭を下げた。  近くで見て……顔面を蒼白にしてオレを来た道へと押し戻そうとしている理由がわかって、ふぅんと唇を分曲げたくなる。  このデカくて不器用なオレの番は、オレが自分の姉に……歴代彼女と特徴の似た彼女に、心変わりするとでも本気で思っているらしい。 「……っ」  ぶるぶると震えながらオレの服の裾を掴む智は、この中で一番大きのに、小さく怯えてうずくまる子猫のようだった。  なんでまだそんなふうに思われてるのかが物凄く腹が立ったけど、オレの怒りとかそんなものよりも智の不安を拭うことの方が先だ。  泣きそうな顔をしている智の、その大きくて分厚い手をガシッと掴みとる。 「……初めまして、お姉さん。智くんとお付き合いをさせていただいています、本日は結婚を前提としたお付き合いのためのご挨拶に伺いました」  はっきりと告げると、腕の中の智の肩が震えて……  お姉さんがオレの言葉を聞いてパッと笑顔を零した瞬間、視界が花に埋め尽くされたんじゃないかって錯覚が起こるくらい雰囲気が華やかになった。  隠しきれない極上なΩの放つ気配だ と本能が訴えたけれど、ありていに言ってしまえばそれだけだ。  優性の強いαという言葉があるように、智の姉は優性の強いΩなんだろう。  でも、だからと言って魅力を感じないものは感じないのだからどうしようもない。  「ふーん」という感想だったが、「智の姉」の前でそんな態度を取れるはずもなく、オレはよそ行きの貼り付けた笑みのままぎゅっと肩を抱く手に力を込めた。 「ご丁寧にありがとうございます。智の姉の、礼と申します」  お姉さんは日傘をわずかに傾け、鈴の鳴るような声で上品に微笑んだ。その所作の一つひとつが、まるで計算されたかのように完璧で美しい。 「ちーちゃん! もっと早く言ってくれないと……お姉ちゃん、知らずに出かけちゃうところだったわよ」  め! と、全然怖くない怒り方をされたのに、智は顔色の悪いままに「うん」「でも」と曖昧な返事を返す。 「お出かけの邪魔をしてしまったんですね、すみません。でも、ご挨拶できてよかったです」 「いいえ、お出かけはいつでもできますから、今日はやめておきます」 「え⁉︎ あ……礼ちゃんはお出かけしてきなよ! 環さんだって準備してくれてるんだしっほらっ待っててくれてるよ⁉︎」    環さん……と、また知らない名前が出てきた途端、お姉さんの背後に立つ黒服の男に気がつく。  ぽっかりと穴が空いたように異質な存在だというのに、今の今までそこに控えていたことに気づかず……気配を消すというのはこういうことなのかと、ごくりと喉が鳴る。

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