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ちいさな(※主観)智くんと、オレのプライド防衛戦 17

「わたくしのことはお気になさらず」  まるで裂け目のように見える広角の上がった唇から出た言葉は丁寧だったというのに、背中にぞわりとするものが走るのを止められない。  カタギに見えない……なんて言ったら失礼なのは百も承知だけれど、この男の目はまともな社会人のソレとは一線を画していると本能が感じる。 「せっかく、環さんとデートなんでしょ? 僕のことは気にしないで!」 「え? お花の展示を見にいくだけよ?」  きょとんというお姉さんの後ろで、環と呼ばれた黒スーツの男が目に見えて肩を落とす。 「何事も一期一会と言いますし、お花ならそれはさらに顕著です。私は家族になってこれからもご挨拶できますが、素晴らしい作品は今日しか会えませんよ!」  一気に言うと、お姉さんは頬に手を当てながら「そうねぇ」とおっとりと言い、「そう言っていただけるのなら出かけてきます」とふわりと笑顔を向けてくれる。  背後の男が目配せで感謝を伝えてくれて……なんとなく仲間意識が芽生えた気配に頷いて返した。 「それではいってきます」  お姉さんの放つ空気はどこまでも穏やかで、敵意どころか純粋な喜びとお祝いの気持ちに満ちている。だが、その「完成されたΩ」としての輝きが強ければ強いほど、オレの腕の中で縮こまっている智の心拍数が跳ね上がるのが伝わってきた。  華やかな気配を残しながらお姉さんが立ち去っても、智の大きな指先がオレのシャツの裾をちぎれんばかりに握りしめたままだ。 「少しはほっとできたか?」 「……龍成、さん……。ごめん、なさい……。お姉ちゃん すごく き、綺麗、でしょ? なのに、僕、全然、似てなくて……っ」  智は顔を覆い、見上げなければならない体を折りたたんでその場に蹲らんばかりの勢いだ。  自分よりも遥かに小さく、華奢で、Ωとしての魅力が溢れんばかりの姉を見た直後だ。自分の「デカさ」が、智にとっては耐えがたい醜さのように感じられているんだろう。  オレは……正直、それに腹が立った。  腹が立って立ってしょうがなかった。    「……おい、智。顔上げろ」  オレは智の太い手首を掴み、無理やりその顔を覗き込んだ。  確かに、お姉さんは「理想」の具現化みたいな人だった。だが、そんなものは図鑑の綺麗な蝶を眺めるのと変わらない。 「お姉さんは確かにお綺麗だったけどな、ふぅんて感想しか出てこない。……それより、見てみろよ。オレの手、お前を掴んで離してねぇぞ」 「ぁ……ぅ……」 「オレは、智のお姉さんに会ってもお前の手を離す気は更々ない」  そろりとオレを見る智の目の淵には小さな涙の粒がしがみついていた。  こんなふうに落ち込むから、昔の彼女の話なんかしたくなかったのに……

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