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ちいさな(※主観)智くんと、オレのプライド防衛戦 21
オレの説得で智は躊躇いながらも歩き出す。
「さっきのは誰の部屋だったんだ?」
「一番上の兄の部屋、です。……今日はいないんですけど」
大学生と聞いていたから、実家ではなく下宿しているのかもしれない。それなら、掃除はされているのにちょっと冷たい雰囲気だった部屋も納得がいく。
「…………応接室の方に行きません?」
「だから、なんでここで弱気になるんだよ」
見下ろされているのにしょんぼりと上目遣いで見上げられて、なんだか不思議な気分だ。
「…………ここが、僕の部屋です」
そう言って震える指先で握ったドアノブの向こうにはオレが待ち望んでいた世界が広がっていた。
ふわっと溢れ出したのは、ずっと探していたあの匂い。清潔な印象を受ける爽やかな柑橘系の匂いと智そのものの体温、そしてどこか懐かしい陽だまりの香り。
「…………うわぁ」
思わず声が漏れた。
そこは、まさに「聖域」だった。
智の気配しかしないそこは、オレがずっと探していた天国なのかもしれない。
広々とした特注らしい大きなベッドの上には、オレがクレーンゲームで必死に取ったあの水色のクマのぬいぐるみとクッションが真ん中に鎮座している。
でもそれだけじゃない。
周囲には、智がコツコツ集めたらしい大小様々なふわふわのぬいぐるみたちが所狭しと並べられている。
「や やっぱり引きますよね、こんな僕が……」
「引くわけねぇだろ。むしろ正解を引き当てた気分なんだけど」
「えっ……」
外で会う智の服装はシンプルで洗練された服や小物ばかりで、それはそれでよく似合っているとは思うけれど、この部屋を見るとずっと感じていたチグハグさが無くなった気持ちになる。
可愛らしい小物で溢れたパステルカラーに包まれたこの空間が、しっくりきてしまった。
「今度、またゲーセン行こうか。もっとデカいの取ってやるよ、この辺とかまだ空いてるし」
オレがそう言って笑うと、智は一瞬、弾かれたように肩を震わせた。
大きな瞳にみるみるうちに熱い涙が溜まっていき、それが頬を伝って……足元のカーペットパステルカラーのカーペットの上に震える水の玉を作る。
「っ……う、ああぁ……っ」
智は顔を覆い、その場に崩れ落ちるようにして泣き出した。
乱暴に言ってしまえば巨体としか言いようのない体が、ぬいぐるみに囲まれた部屋の真ん中で丸まって震えている。
その姿は、世間一般が見れば奇異に映るのかもしれない。けれどオレの目には、安堵に緩んだ表情をしていて……いつもよりちょっと幼く見えて、ぎゅっと心臓を掴まれたような気分だった。
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