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落ち穂拾い的な 立ちはだかる壁、健在 1
約三年ぶりに顔を見た智の父親は……以前よりも表情が柔らかくなってるようななってないような?
逆さまだからかよくわかんない。
あ、放り投げられたからだ。
「相変わらずですね、おと 「お前の父じゃあない」
ごもっとも。
このやりとりを懐かしいなぁとしみじみと思えるあたり、オレはかなり成長したんじゃなかろうか? ジャングルのよくわからない虫たちに揉まれた甲斐があるってものだ。
「パパ! 龍成さんがケガしたらどうするの⁉︎」
「病院には運んでやる」
まったく衰えを知らない筋骨隆々な姿を逆さまで見上げる。
目線の揃う智を見ている父親の目は、子供をあやすン=ザイロくんと同じように慈愛に満ち溢れていた。
「どの面下げてうちの敷居を跨いだ?」
「ジャングルでこんがりローストされた顔ですかね」
くるりと身を翻して着地し、服の埃を払いながら答えると、智の父親の冷ややかな視線とぶつかった。けれど、ジャガーに脅かされて過ごした経験が功を奏したのか、以前のように怯みそうになることはない。
「おかげさまで鍛えられましたよ」
裏で手を回して入社早々にあんな僻地にオレを飛ばしたことを知ってるんだぞ と、言外に込めて言ってやったが相手には効かないようだった。
「随分とワニ釣りが楽しかったようだな」
「あ、はい。手応えが魚とは全然違って……って、なんで知ってるんですか⁉︎」
検閲⁉︎ もしかして智への手紙は検閲されてたんだろうか⁉︎
あんなことやこんなことも書いちゃったけど、それを覗き見た親の気持ちを考えてちょっと悲しくなる。
オレは、絶対に子供の手紙は見ないぞ!
「虫に尻を刺されたことも知っているぞ」
「ヒェ」
なんかよくわからない掌サイズの虫に襲われてかなりやばい部分を刺された話は、あまりにも情けなくて智への手紙には書いていない事柄だ。
「……例のキノコを食って森を徘徊していた時の動画があるが」
「ヒェェ!」
食用だと思って食べたキノコが実は強力な幻覚作用のあるタイプで、智の名前を叫びながら森を三日三晩走り回ったあの出来事こそ、本当に本当に智には知られたくないことで……
父親を必死に止めようとしている智をチラリと見てから、しおしおと塩をかけられたナメクジの如く、正座して小さくなる。
つまり、この人はあんな不便なところにいたオレの動向をすべて知っていると言うことだ。
ろくに通信手段もないと言うのに……行動が筒抜けていた、その事実に背筋が寒くなったけれど、この父親ならやりかねないと思わせる。
仕方がないって割り切るしかないだろう!
「こほん。えぇーっと、海外駐在を終えてただいま戻りました。本日は智さんとの結婚を許していただきたく、こちらに参りました」
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