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落ち穂拾い的な 立ちはだかる壁を越えて 1
カーテンを開ければ百万ドルの夜景があることはわかっていても、それを見る余裕はオレたちにはない。
柔らかい間接照明だけが点る寝室は、しんと静まり返っているのに心臓の音だけがやけに大きく鼓膜を打っていた。
四年間、ずっと焦がれ続けてきた時間が、今ここにある。
「龍成、さん……っ」
ベッドの端に腰掛けた智が、上目遣いでオレを見上げた。
ほんのりと熱を帯びた頬は薄紅色に染まり、長い睫毛が微かに震えている。その甘い吐息には、彼がΩとして発する芳醇なフェロモンが混じり始めていて、オレの理性を根本から揺さぶってきた。
「智……ずっと、この瞬間を待ってた」
触れることすら躊躇うような、壊れ物に触れる手つきで智の頬を撫でる。
智はオレの手のひらにすり寄るように目を閉じて、ふわりと微笑んだ。それだけで、下腹部に重たい熱が溜まっていくのがわかる。
オレはゆっくりと自分のバスローブに手をかけ、それを脱ぎ捨てた。
露わになったオレの体を見て、智が「あっ……」と小さく息を呑む。
無理もない。
三年前のオレの体は、それなりに引き締まってはいたものの、まだ学生の延長線上にあるような薄っぺらいものだった。
けれど今のオレの体は未開のジャングルで過酷な大自然に揉まれ、徹底的に鍛え抜かれている。深く日焼けした肌、分厚くなった胸板、硬く隆起した腹筋や、丸太のように太くなった腕。無骨で、荒々しいαの肉体へと変貌を遂げていた。
「龍成さん……すごく、逞しくなりましたね」
智の震える指先が、オレの胸板にそっと触れた。
ピクリとオレの筋肉が反応する。智の手は熱を持っていて、触れられた場所から火がつくような錯覚を覚えた。彼の手が腹筋をなぞり、腕の筋肉を確かめるように撫でるたび、オレの喉から荒い息が漏れる。
「智にかっこいいって思われたくて、死ぬ気で鍛えた」
「……嬉しい、です」
智の瞳が、情欲と愛おしさで潤んでいく。
オレはたまらず智の肩を抱き寄せ、その唇を塞いだ。
「んっ……ちゅ、ぁ……っ」
最初は優しくついばむようなキスだったが、長年抑え込んできた渇望はすぐに制御を失った。
舌を絡め、お互いの唾液を交換し、息継ぎの隙間すら惜しむように深く、貪欲に貪り合う。智の大きな手がオレの背中に回り、しがみつくように爪を立てた。
熱烈なキスの合間に、オレは智が着ていたバスローブを慎重に剥ぎ取っていく。
顕わになった智の体は、日にこんがりと焼けたオレの浅黒い肌とは対照的に、どこまでも白く滑らかだった。けれど、決して弱々しくはない。均整の取れた良質な筋肉がしなやかに付き、男としての美しさと力強さを兼ね備えた、芸術品のような肉体だ。
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