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落ち穂拾い的な 立ちはだかる壁を越えて 4
「僕……自分でも、そこは……触ったことがない、から。……これからどうなるか、わからなくて……恥ずかしくて……っ」
羞恥に耐えかねたように、智は腕で自分の顔をすっぽりと隠してしまった。その腕の隙間から見える耳や首すじまでが、ゆでダコのように真っ赤に染まっている。
――自分でも、触ったことがない。
その言葉の破壊力は、すさまじかった。
智の体の中で、まだ誰も……彼自身ですら触れたことがない、完全な手付かずの場所。そこにこれから、オレが世界で初めて触れるのだ。
その事実が、オレの中のαとしての独占欲と征服欲を激しく煽り立て、頭の奥が痺れるほどの強烈な興奮を呼び起こす。
ぐらぐらと揺れるほどオレの頭の中身を揺さぶるだけ揺さぶったのに、智は追撃とでも言うように「それに……」と言葉を続ける。
「今日は薬も飲んでなくて……きっとヒートが来ちゃいます。僕……薬がないヒートも……初めて、で」
「は、初めて?」
「っ……はい。なので……自分がどうなっちゃうのか、……」
あの過保護な父親のことを考えると、事前に打てる手をすべて打っていたに違いない。抑制剤も昔よりはずいぶんと研究されて、副作用も少なくよく効くものが体質ごとに発売されているくらいだし、もしかしたら智に合わせたテーラーメイドの抑制剤を用意してるんじゃないかと思う。
「変になっても、嫌いにならないでくれますか?」
「ここまで好きになっといて、今更そんなことで嫌いになるはずないだろ? むしろ 」
むしろ、それこそ本当に誰も見たことのない、乱れた智なのだとしたら……
「 ゾクゾクする、嬉しすぎておかしくなりそう」
「ええ⁉︎」
まるでいじめられた子鹿のように瞳を震わせ、智は不安を隠せないようだった。
「だってっ、変な顔とか、声とか…………」
「そんなので嫌いになんかならない。お前の全部が愛おしいんだ。それに、薬で抑え込まれていない、本能のままの智を見られるなんて……α冥利に尽きる」
オレは智を安心させるように、その形の良い唇に何度もチュッチュッと啄むようなキスを落とす。繰り返し唇が触れる度に、緊張で固まっていた智の表情が柔らかく綻ぶようにとこけて……
その時だった。
ふわり、と。部屋の空気が一変した。
智の体から、甘く、それでいて脳の髄を直接殴りつけてくるような、強烈で芳醇なΩのフェロモンが匂い立ったのだ。
「 っ! あ、まいっ」
今までの人生で感じた興奮なんてなんだったんだって思えるほどの凄まじい感覚。
唐突に宇宙に放り出されたんじゃないかと錯覚するほどの浮遊かんと痺れと、多幸感。
「あ、ぁ……っ、龍成さん……体、あつい……っ」
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