239 / 261
落ち穂拾い的な 立ちはだかる壁を越えて 6
悲鳴ではなく、甘く甲高く……とろける余韻を持ったそれはオレの脳みそを揺さぶって、今、手の中にある宝が自分のものになったんだと、胸を満たす感情の激流に息を詰まらせる。
全身がオレを欲していて、全身がもっと奥まで入ってこいと誘い続けている。
オレは根性を叩き起こしながら、歯を食いしばって智のナカに居続けるために射精を堪え、けれど気持ちの良さに理性がへし折られてしまったせいで、肌同士がぶつかり合ってぱしんぱしんと甲高い音を響かせるほど力強く腰を振った。
すがってくる手に応えるように体位を変えて、真正面から智と向き合う。
お互いがお互いの間に隙間がわずかでもできないように、しっかりと抱きしめあって……
「僕っ、龍成さんのっ……ものに……! 大好き、大好きです……っ‼︎」
「オレもっ大好き……愛してるっ!」
全身の力が抜けそうになるほどの幸福感の中、智の極上の熱に包まれながら、オレはこれ以上ない最高の絶頂を迎えたのだった。
――バキィッ‼︎
……ん?
今、オレの胸のあたりですんごい嫌な音がしたような気がするけど。まあいいか、智が最高に可愛いし……でも、どうしてだか意識が、遠のいていく……
――翌日。
オレは、真っ白な天井を見上げていた。ツンと鼻を突く消毒液の臭いが、ここが病院であることを無慈悲に告げている。
「ううっ……っ、ぐすっ……ごめんなさい、龍成さん……僕、嬉しくて、つい力が……っ」
ベッドの傍らでは、198センチの巨躯を限界まで丸め、パイプ椅子にちまっと座った智が滝のように涙を流して懺悔していた。
胸部に巻かれたコルセットの感触と、息をするたびに走る鈍い痛みが、昨夜の惨劇の真実を物語っている。
離れていた二年間、逞しく鍛え上げられたのは、オレだけではなかったのだ。
オレがいない間、少しでも「龍成さんにふさわしい強い番になれるように」と健気にトレーニングに励んでいた智の握力および腕力は、なんとりんごどころかパイナップルまで素手で粉砕できる、人を越えるレベルにまで成長していたらしい。
そんなゴリラの……いや、パイナップルクラッシャーの腕力で、ヒートの絶頂と番になった歓喜のままにフルパワーで抱きしめられて、オレのジャングルで鍛えたはずの体はあっさりとへし折られてしまったと言うわけだ。
「……気にすんな。これも、智の愛の重さだと思えば……痛ぇっ」
「ああっ! 喋らないでください、響いちゃいます……っ! 僕、自分の怪力……じゃなくて、強さが憎い……っ!」
オロオロと泣きじゃくる智の大きな手を、オレはそっと握り返した。
「……でも、ちゃんと番になれただろ?」
オレの言葉に、智はハッとして自分のうなじに触れる。そこには絆の証である噛み跡がしっかりと残っていて、触れた途端、智の顔がパッと明るくなった。
「はいっ……! 僕、世界で一番幸せなオメガです……っ!」
満面の笑みを浮かべる「ちいさな(※主観)」恋人を見ながら心の中で天を仰ぎ、当分の間立ちはだかる「壁」は、父親よりも先に抱擁に耐えうる体づくりだと悟る。
それでも、痛む胸の奥に溢れる幸福感には勝てず、オレの口元はどうしようもなく緩んでいた。
END.
ともだちにシェアしよう!

