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Aria of Echoes 4

 変わりないか、変わりあるのか、凪は答えを持っていなかった。  学期ごとに大きな模様替えをする部分もあるし、そうでない部分もある。 「十二年も経ってたら場所も変わってるか。仕方ないね、道案内を頼んでもいいかな?」 「オレがですか?」 「アグリッパやブルータスには言ってないね」  凪は表情を動かさないまま、自分と侵入者の会話を見守り続ける彫刻をひと睨みした。  今から、絵を描こうと思っていたのに と、思わずへの字になりそうな口をギュッと引き締める。最近、叔母に拗ねた時の表情が父親そっくりと言われてショックだったからだ。 「……こちらです」  住江教授の印象を悪くすることは得策ではないと、凪は渋々といった様子で教室を出る。 「悪いね」  軽い返事は……きっと罪悪感なんて感じてないソレだった。 「いえ」 「描こうとしてたんだろ?」 「……えぇ」  わかっているのに声をかけてきたのかと、凪は眉間に皺を寄せる。 「描こうとして瞬間に邪魔されるの、嫌だよねぇわーかーるー」  卒業生ということは年上だというのに、口調は砕けてて子供っぽい。  凪は「なんだこいつ」という表情を隠せないまま、じろりと男を振り返った。 「あ……」  口調とは裏腹な落ち着いた佇まい、柔らかで波打つ髪は左耳の下で団子に括られてから垂れ下がっている。  生気があるのかと思える透明に近い白い顔は、Ωらしい整ったものだったけれど、長いまつ毛が伏され気味のせいかどこか儚い印象だ。  芸術学部の人間は良くも悪くも主張の激しい人間が多くて、それが表に出たような人間ばかりだからか、中身はともかく見た目の柔らかな姿に、凪は毒気を抜かれて視線を逸らした。 「ごめーんね!」  可愛らしくしなを作りながら謝る男を見下ろし、凪は口をもごもごと動かしながら「別に」と呟き、ほくろのある唇をカリカリと爪で掻く。 「あれって四年次の学科内展示?」 「っす」 「この時期だからそうかなって思ったんだけど、あれってまだあるんだね」 「っす」 「随分大きいキャンバスだったけど、あれに描くの?」  随分と「あれ」の多い会話だと思いながら、凪は相槌のような短い返事をする。 「あのサイズを出そうってことはぁ、君は猛者だな!」 「そんなんじゃなくて……人物画が描きたくて……そのままの大きさで」  小さい作品よりもごまかしの効かない大きなサイズで、自分の実力を見せつけたかっただけだ。  自分ならできると信じてキャンバスを用意して……けれど、手はそこで動かなくなってしまった。 「ふぅん、面白いね」  伏せられていたまつ毛がゆっくりと持ち上がり、その奥に秘められていたトパーズのように煌めく色の薄い瞳が凪を見上げる。

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