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Aria of Echoes 6
薄い、光が当たると金色に見える瞳を物憂げに動かし、汐音は目の前のキャンバスを見上げる。
今にも振り返りそうな横顔は、見る人が見れば汐音だとわかってしまう。
「破ってなんかねぇよ」
ため息をひとつ吐き、凪は渋々といった雰囲気を隠しもしないまま右手を動かし、美しいラインの横顔を乱れる髪で隠す。
ほんの数本、線を描き足しただけだというのに、キャンバスの中のモデルは神秘のベールに包まれてしまった。
「あーあ。もったいね」
「もったいなくないよ! こんな格好させるなら、もっと若い子を選ばないと!」
そう言ってしがみつく汐音は、Ωだからか、それとも本人の体質だからか、フェロモン同様みずみずしく凪と一回り以上違うようには見えない。
「いーや、あんたを描く。そう決めた」
少しかたつきをみせる木の椅子に座ったまま、凪は力強い腕で汐音を引き寄せる。
膝の上に乗せると驚くほど軽く華奢な体を力一杯抱きしめると、むずがる子供のようにケタケタと汐音の笑い声が上がった。
きらきらと瞳を輝かせ、白い喉をのけぞらせる。
凪は、その首に噛みつきたい衝動を堪えながら、抱きしめる腕にさらに力を込めた。
互いのフェロモンを確認した直後、言葉よりも先に視線が絡まった。
吐き出した二人の息が至近距離で交わり、唇の頂が触れそうになる瞬間……二人はかろうじて残された理性で互いの体を突き放す。互いの体に触れた指先から伝わる熱が、じわじわと浸食するように這い寄っては末端の神経から本能で塗りつぶしていく。
「 」
「 」
「だ、め、せめて、帰るって、言わないと 教授が 」
大人として、わずかばかり理性の優った汐音の言葉に、凪は鋭い歯の並んだ口を歪めてギリギリと音を出した。
この世で最も憎んでいるものを見る目で汐音を一瞥すると、傍のロッカーに放り込まれている誰のものかわからないクロッキー帳をひったくり、ページを選ぶ間もなく引き裂く。
真っ二つになった円柱の石膏を気にも留めず、凪はそれを突き出して顎をしゃくった。
「 」
ギラリと飢えた獣の目。
けれどそれはΩを獲物と認識したαの瞳だった。
質量があると言われても信じられるほどの熱い視線が瞼を撫で、鼻を滑り落ちて唇で惑う。邪魔そうにネックガードを睨みつけながら視線は心臓を射止めるように動き、ゆっくりとへその下へ移る。
服を着て、視線に直接晒されているわけでもないのに、このαの目は確かに服の下、汐音の柔らかな腹の肉に視線を注いでいる……いや、更にその奥。
Ωが持ち、そのαの胤を受け止められる部分を見透かすように見られているのだと、汐音は震えた。
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