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Aria of Echoes 9
「足りないだろう?」
ニヤニヤとした表情は確信があってのものだ。
凪のその不遜な表情に汐音は枕を投げつけてやりたくなったが、うまく動かない体ではそれは叶わなかった。
お互いに貪り貪られて身体中は至る所にキスマークが浮かび、歯形が付けられている。
二日間酷使した体は悲鳴をあげて、もう腕を上げることすら難しいというのに……
「 ――だって、ほら、せっかく出したのが溢れちまってる」
揶揄うような口調で、凪は色っぽく笑いながら汐音の太ももの肉を引っ張った。
ほんのわずかな力を込めるだけで、汐音の緩んでしまった窄まりからはぶちゅりと凪の出した精液が噴き出す。
白い足の奥まった部分から、自分の匂いが溢れていることに凪は満足そうに笑う。
「もう一度、栓してやろうか?」
「ん〜〜っ! 僕の体はもう限界! お腹も空いた!」
このままのしかかって再びベッドに雪崩れ込もうとする凪を押し返し、汐音は拒絶を示すようにシーツを体に巻き付けてそっぽを向いてしまった。
「じゃあ何か頼むか……ピザとか…………ぁ、……あー……その、なんだ」
「何? ピザでいいよ! チーズだけのやつ食べたい!」
先ほどまでのぐったりした様子を見せないまま、汐音はサッと起き上がって凪の方へと向かい合う。
「どうしたの?」
「あ、いや……名前、を、聞いてない」
凪はやってしまったことに胸のうちに冷たいものを抱え込んだ気がした。
一目惚れして部屋に連れてきてから二日間、自己紹介するチャンスは幾らでもあったが、二人はそのわずかな時間すら惜しかった。
その一言をしゃべる時間があるのなら唇を貪りあっていたし、正面に向かい合うならば抱きしめ合い愛撫をしていたかった。
結果、散々体をつなげた関係だというのに、凪も汐音も互いの名前すら知らないまま……
「…………ふ、ふふ。いい年してとんでもないことしちゃった! 僕は、桜庭汐音」
「汐音……オレは、一ノ瀬凪 だ」
今更ながらの自己紹介に照れくさくなり、凪は自然と唇をへの字に曲げてよそを向く。誤魔化すためにピザのチラシを取り上げて、懸命にピザを選ぼうとした。
馬鹿みたいな出会いだった と凪はシーツにくるまりながらピザを食べている汐音を横目で盗み見ながら思う。
小さな子供じゃあるまいし、人となりもわからない初めてあった相手に対して、二日間も盛ってしまったことに対しては「やらかした感」しかわかない。
けれど、それでもこの二日間、互いの間で行き交った熱量を否定したくはなかった。
「ここ、ソースついてる」
年上だというのに、子供のように頬張って食べる汐音に苦笑をこぼしながら凪は頬に触れ、拭うついでに唇をそっとなぞる。
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