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Aria of Echoes 15

 紙と油分のために絵はあっというまに燃え上がり、勢いを増した炎は凪を近寄らせることもさせてくれなかった。  部屋に置いてあった画材一式も炎の中に投げ込まれて……  赤々と燃え上がる炎を前にへたり込んだ凪は、まるで火刑に処された恋人を見ている気分だった。  潮も、普段は感情らしい感情を出さない父がこれほどに激昂したことに震え上がり、その日から、家族の間で会話らしい会話は行われなくなった。  元々母と潮のことを良く思っていなかった叔母を頼り、高校は全寮制に入り、そのまま大学に進学して一人暮らしを始めた。その間、実家に帰ったことは一度もなく、保護者が必要な場合は叔母である海乃にすべて任せる形で過ごしていた。  だから、実家に帰ったのも本当に久しぶりのことで……  凪は自分の持っている鍵がまだ使えることに少なからず驚いた。  中に入ると、もうそこは自分の家だった頃の雰囲気はカケラも残っていない。リフォームをしたからか、全く見知らぬ家に入り込んでしまったかのような気まずさがある。 「  ――もう帰ったの? まだ準備ができてな…………っ」  リビングのドアの向こうから機嫌のいい声が聞こえ、緑のドレスが翻るのがガラス越しに見えた。  この数年、鍵を開けて勝手に入ってくるのは潮か父かしかいなかったからだろう、リビングのドアを開けて足早に玄関に向かおうとした母はなんの心構えもできていなかった様子だ。 「だ、誰? き、 きゃーっ! 潮! 警察! 泥棒よ!」  驚いた時に、人間は腹の底から悲鳴を上げられるものかどうかはわからなかったが、母は凪を見た途端、不審者だ、泥棒だ、強盗だと半狂乱になって悲鳴を上げ始めた。  傍にあったマイセンの置物を振りかぶっては投げつけ、「すぐに警察が来るわ!」と喚き続ける。  幸い、置物は足元に落ちて凪自身に被害はない。  床に散らかる破片を眺めて、凪はもったいないことを と、どうでもいい感想を抱いていた。  一人で喚きながら手当たり次第に辺りのものを投げて暴れる母を凪が無感情に眺めていると、背にしていた扉が開いて風が動く。 「 ――――なんだ、この騒ぎは」  流石の父も言及せずにはいられなかったんだろう と、凪は「わかりません。お母さんが急に錯乱しました」と短く報告した。  その声に……父親の視線がゆっくりと動く。  視線は凪の胸あたりに移動してから、確認するようにゆっくりと上がって…… 「あなた! 危険よ! 離れて! 最近の泥棒は包丁を持ってたりもするんだから!」 「お前はさっきから何を言っている」  父の声はこの惨状と母を見ても平坦で、玄関を見渡しても変化することはない。

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