259 / 260
Aria of Echoes 17
その言葉だけで十分だった。
凪は父親が本当に自分に興味がないのだとはっきりと理解した。
毎年、何回行われるか分らない家族での食事、四年間そのすべてをドタキャンしても気にしなかったということだ。
この目の前で表情を動かさない父親は、凪が居ようが居まいが、連絡があろうがなかろうが、どうでもいいと思っている。
参加しないのならどうして参加しないのかを確認もしないし、ドタキャンを繰り返す無作法に対しても顔を合わせる今まで咎める発想すらなかった。
母親からどう言った扱いを受け、最低限の食事すらままならなかったことなど、気にもかけなければ想像もしたことがないのだろう。
まったく、興味がない。
突きつけられた事実に、凪はソファーに置いていた手に力を込めた。指に染み付いていた青い絵の具が真っ白な生地を汚し、薄汚れた青い軌跡を残していく。
「では、今回も欠席にしておいてください」
「おい」
「お店も、その方が困らないと思いますよ。ね? お母さん」
凪が立ち上がったことにホッとした表情を浮かべた母は、凪の言葉に再び頬を引き攣らせる。
元々三人分しか予約を取っていないことがバレやしないかとハラハラとしている顔色は、青くなったり赤くなったりと忙しい。
潮も母の所業を知っているからか、気まずそうにそっぽを向いて興味なさげを装っている。
「作品展の準備で忙しいんです、こう言った集まりにはもう来ませんから」
サッと踵を返した凪に父が待つようにと声をかけたが、その時にはもう廊下を過ぎて靴を履いているところだった。
リビングの扉から立ち上がった父の影は見えたけれど、凪が玄関扉から出ていくのを止めることはできない。
もっとも、父親は追いかけてまで話をするような人物でないと、凪は知っていた。
だから、今日のことはもうこれで終わりというわけだ。この後、あの三人が食事に行くかどうかは分らなかったが、少なくとも一点の曇りもない誕生日……というわけにはいかなくなっただろうと、凪は薄く笑う。
あの母親と潮の取り乱した様子を見て少しは溜飲を下げることはできたが、同時に酷い空虚さに襲われもしていた。
その空白が、凪の笑みを誘う。
「ふ……はは……なぁんだ。つまんねぇ家族だった」
こんな時、金があればタバコの一本でも咥えて紫煙を吐きながら帰路に着くだろうに と、つぶやいた。
鍵を差し込もうとした扉の向こうからガチャガチャと音が聞こえた。
凪のアパートは玄関を入ってすぐ左手に小さなキッチンがあり、そこで料理を作ると音が外まで響いてくる。
ともだちにシェアしよう!

