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Aria of Echoes 24
触れられたくない傷。
全身がそう物語っていた。
凪は、自分が尋ねたかった事柄と先ほどの態度が同じ質のものだと感じて、あえて態度に出さないようにおどけてみせる。
「オレが噛んだのか知りたかっただけだよ。あんたの体に夢中になってると、いろんなところを噛みたくなってくるから……風呂に入って尻を見るなよ?」
「し り? え⁉︎ そんなに噛んだの⁉︎」
「ごめんってぇ。お……怒るなよ?」
「先に謝っても、怒られる時は怒られるんだからね!」
「ほんのちょっとだけだって」
「そのほんのちょっとが問題なんでしょ⁉︎」
汐音の尻が好みすぎて、凪は一度、盛大に尻に噛みついてしまった時があった。
座り仕事だというのに、じっと座っていられない! と汐音に散々怒られたはずだったのに……小ぶりで形のいい尻には、しっかりとした歯形が並んでしまっていた。
「もう! 集中して仕上げなきゃなものもあるのに!」
「ごめんって。なんかいいクッション探してみるから」
先ほどの怯えを吹き飛ばしたらしい汐音に、凪はホッと胸を撫で下ろしつつ、「そういえば……」と言葉を溢す。
凪は汐音の仕事が何かを、知らなかったことを思い出していた。
簡単なベーコンオムレツ。
ベーコンは焼いた後に適度なサイズに切り、卵はザルで越してとにかく殻を徹底排除した。
本来なら簡単な料理のはずなのに、余計な手間がかかった……と呻きながら、凪は出来立てのベーコンオムレツを運ぶ。
「コーヒーはやめておくぞ? ホットミルクで我慢しろ」
時間は深夜で、空腹でどうしてもと食事をとることにしたが、今、コーヒーを飲んで眠気を逃すわけにはいかなかった。
「ぅん、なんならホットミルクだけでもいいかも」
そう返事をする汐音の声はどこかぼんやりしている。眠気に負けそうな声ではなく、何かに集中して気もそぞろになってるんだろうなって返事だ。
凪が近寄ると、膝の上に本を広げてゆっくりとページをめくっている。
「あっそれは……」
「金の王子、銀の王様、銅の騎士」
短く返された題名に、凪はちょっと恥ずかしくなって視線を逸らした。
もう大学生だというのに大事に絵本を持っていることに、居心地の悪さを感じてしまい……凪は慌てて、口を開く。
「そ、その人の絵、すごいだろ⁉︎ 憧れるっているか、オレの創作の指針になってるっていうか……あー……ぅ……いい作品だから持ってたいっていうか、大好きな本なんだ」
じっと自分を見上げてくる汐音の瞳の美しさに負けて、凪はしどろもどろと本音を告げた。
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