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Aria of Echoes 27
その第一声に、後ろの方にいた何人かが気まずそうに席移動をする気配がした。
凪は後ろを振り返ることもないまま、じっと汐音を睨みつける。
「…………」
「…………」
お互い、そこに相手がいるとわかってはいても、声をかけなかった。
住江先生が諸注意を告げ、汐音に代わる。
いつものようなふんわりとした雰囲気がなりを顰めているのは、カーディガンの中がシャツとネクタイだからだ。黒いスラックスもいつも履いているようなゆったりしたものではなく、きちんと折り目がついた真新しいものだった。
だから余計に、少しサイズが大きすぎるカーディガンが目立つ。
「僕のことを知っている人は、どれくらいいる?」
朗々とした問いかけだったけれど、生徒のうちで手を挙げる人間はいない。
凪は一瞬上げてやろうかと思ったけれど、美術関係の仕事についている としか知らないから、詳しいわけではないと手を引っ込める。
幾度聞いても教えてくれなかったのだから、知りようがないとも言えた。
「ああ、よかった! これで知ってるよって人がいたらどうしようかと思いました。僕は顔を出したことがないので、知っていなくて当然です」
「もったいぶるなぁ」と、凪が思わずこぼしてしまった言葉は、残念なことに聞き取れてしまう距離だった。
金色の宝のような瞳が自分に向けられ……凪はぎゅっと詰まる胸の苦しさに顔を顰める。
「もったいぶっても話は進みませんね。では、こちらなら、知っている、見かけた人は多少いるんじゃないかな?」
そう言いながら教壇の足元から何かを取り出そうとして……汐音は何かまごついているようだ。
「ちょっとそこの君、手伝って」
教壇の真正面に座る凪を指差すと、壇上に上がってこいと指で呼ぶ。
「…………」
誰か他の人間に……とするのも業腹で。
凪はサッと立ち上がると指示通りに教壇の後ろへと回ってダンボールのそばへとしゃがみ込んだ。
「んふふ。ありがとう」
「ん。……てか、なんでオレの着てんの? オレのだってバレたらどうすんだ」
「バレるのいや?」
「……別れたかったんじゃないのか? 子供っぽい恋人に呆れて」
「それは誰の話だい?」
「ぅ……」
ギロ と睨みつけた瞬間だった。
柔らかな唇が凪の少しカサついてしまっている唇に触れたのは。
「っ⁉︎」
サッと辺りを見回すと、教壇が壁になってすべての視線を遮っている。
汐音はイタズラを見つかった子供のようなくしゃくしゃとした笑顔を浮かべると、ダンボールの中から一冊の本を取り出して立ち上がった。
「はじめまして! 絵本作家のMANOTOです!」
マイクを通した声は溌剌としていて、そしてどこか揶揄う気配を含んでいた。
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