276 / 293

Aria of Echoes 34

 叔母は常に兄に対して不満があることを凪はよく知っていた。  その内容がどうしようもなく理不尽なことも、よくわかっている。 「だって、私たちの会社なのにどうしてよその人間にとやかく言われないといけないわけ?」  凪は少し返事に困り……否定することができないまま、神妙な声で「そうなんですか?」とだけ返す。結局のところ、海乃の求めている答えは否定でも肯定でもなく「相槌」だけなのだから。 「うちの会社なのよ?」 「…………」  その会社はとっくの昔に中身が変わり、名前だけが残されているのだと幾ら凪が説明しても海乃は理解しなかった。  先祖代々受け継がれてきた会社は、海乃の父――凪の祖父の手によって一度は潰れかけるところまで追い詰められていた。その窮地を救ったのが母の実家である一ノ瀬家で、αの血統という確かな器量を見込まれ、一ノ瀬の籍へ凪の父が入ることで傾きかけた家格と会社を繋ぎ止めることができたのだ。  温情として会社の名前は残されたが、経営を含む何もかもが遠い存在だった。  そんな会社の権利を声高に、まったく経営にも携わったこともない海乃が叫んだところで、取り合う方がおかしな話だ。  けれど最後に縋るものが必要だとも思っていた。 「お父さんやおじいちゃんがずっと守ってきた会社でね? 貴方だってきちんと経営を学ぶのよ? 次の社長なんだから   」  スーツにネクタイを締めて椅子に座って会議? と、嫌味ったらしく言い返しそうになって飲み込んだ。  現実を直視しない叔母は、自分のことも見ているようで見ていないのだと、口から出そうになった言葉を飲み込んだ気持ちの悪さに顔を顰める。  それでも、家を飛び出した自分の援助を買って出てくれたのだからと、アパートの前に立ちながら相槌を繰り返した。 「今度、直接言いに行ってやろうかしら」 「父さんは捕まらないと思うよ。忙しい人だし」 「忙しいって言っても家族なのよ⁉︎ 家族と話もできないってどう言うこと⁉︎」  またヒートアップしていきそうな声音に、凪は慌てて切り上げる方向に話を持っていく。  間違っても「父さんの家族は一ノ瀬の母と弟だ」なんて口には出せない。 「あ、ごめん。アパートに着いたから……うん。壁が薄いから電話してると怒られるんだ」  実際は防音のしっかりしたところで、汐音が上げた声も隣には聞こえていない。  凪の言い訳を信じた海乃はまだ文句が言い足りないと言った雰囲気だったけれど、仕方ないわね と引き下がってくれた。  通話の終了した携帯電話の画面を見下ろし……熱のこもった頬を力任せに擦る。  

ともだちにシェアしよう!