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Aria of Echoes 36

「汐音!」 「ちょ……ちょ、ちょー……っと、なぁくんは何を言ってんの⁉︎」  汐音はささっと周りを見回す。  誰もいないことを確認してから、ほっとした顔をしながら教室へと入ってくる。 「もう、もーう、やめてよ!」 「でも、汐音は綺麗だし、オレはミューズだと思ってる」  芸術家に天啓をもたらす女神を引き合いに出されて、汐音はもじもじと顔を赤らめて視線を逸らした。 「汐音を、繰り返し描きたい。どんな瞬間の汐音も逃さず描き留めて、生涯を通して汐音を描き続けたい」 「ぇ……な、なに  」  凪はサッと振り返り、絵の方へ進むと絵の中の白い頸に小さな楕円をいくつも描き込んだ。 「凪⁉︎」  それは、αとΩに交わされる契約だった。 「汐音。あんたの頸を噛ませて欲しい。ミューズを捕まえておきたいんだ」  そう言うと凪は汐音の前で膝を折り、乞い願うように小さな箱を差し出す。  ベルベットの小さな箱が開かれると、そこに収まっていたのは深い深い紺碧色の石をつけた指輪だった。華美なデザインではないが、繊細で華奢な雰囲気が汐音によく似合っている。 「番になって、結婚して欲しい」 「――――――!」  汐音は飛び上がり、悲鳴をこらえるように口を手で押さえて……そして、狼狽える。 「ぅ、あ、……の、   僕、  ……僕 」  片膝をついた凪は、汐音は喜んで受け取り、そのまま熱烈な抱擁をして……と想像していた。けれど、目の前の汐音は嬉しくないわけではなさそうだったが、手放しで喜んでいるようには見えない。  むしろ、怯えるように指輪を凪を交互に見て、小さく身をすくめてしまった。 「ぇ……あ、このデザイン…………気に入らなかったかな?」 「ちがっ……すごく、このデザイン、好き」  震える視線が凪の手の中の指輪を見てゆらりと光を宿す。なのに汐音は手を伸ばそうとはしない。 「好き……だよ。嬉しい、んだ」 「じゃあ」 「……………………」  気まずそうに俯かれて、凪はそれが汐音の答えなんだと理解することができた。  好きだが、受け取るほどではない。  つまり、好きだけれど、番になるほどではない。 「…………そ、だったのか」  あっと言う間に恋に落ちて、毎日会ってキスして一緒に眠って……そんな生活が当然で、これからも続いていくと信じていただけに汐音の拒絶に凪の頭の中は真っ白だった。 「ごめんごめん。そんなんじゃないのに……一人で浮かれちゃって。ほら、オレってこの間まで……童貞だったし…………そういう機微? って、わかってなかったみたいで……」  慌てて箱を閉じ、そうすれば何もなかったことにできるとでも言うように、凪は素早く背後に隠す。    

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