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Aria of Echoes 37
叱られた子供のように俯くと、「ごめん」と凪はもう一度謝った。
「………………凪、この後の授業、受ける?」
ぶるぶると震えながら俯く凪にかけられたのはあまりにも関係のない話だった。
この後の授業の話で上塗りできてしまうような話題だったのかと、凪は考えのまとまらない頭でぼんやりと思う。
「あっ……ちがっ…………君が。もし君が、この授業を聞いて、それでもまだ……僕を好きなら……もう一回話をしよ?」
「?」
講義の何がプロポーズにかかってくるのか?
わけのわからない凪は、胸の奥にチリリと走った火種を燃え上がらせるように、汐音の手を振り払った。
「ここでキッパリ断ったんだから、もういいよ」
「凪っ」
「せっかく楽しくやれてたのに、水を差しちゃってごめんな」
「ちがう、違うっ」
「振られる前提で付き合うなんて、オレはできないからさ。ぃ……ぃ、まで、ありがと」
「聞いて! お願いっ……」
「お願いって、さすがにそれは酷いだろ」
凪はよろけるように後ずさったが、汐音はそれを追いかけるようにしてしがみつく。
「さ……最後の、お願い! だから……」
しがみつかれ、乞うように見つめられて……凪は痛む胸よりも目の前の愛する人の願いを受け入れざるを得なくなる。
「……わかった……」
結果のわかりきっていることを待つ憂鬱さに、凪は項垂れながら汐音の手を振り払った。
今日は汐音の特別講義の最終日だ。
全四時間の最後の講義は、絵本の紹介や絵本への考え方、絵本の現状、仕事の内容などと続き、今講義ではどうしてこの道を選ぶことになったかを話す。
「……これまでの、授業で………………」
教壇に立った汐音の声はわずかに上擦り、目の前に座っている凪からは赤くなった目の縁が見える。
泣きたいのは自分なのに……と、凪は視線を逸らして絵の具のついた手を見つめた。
「僕がこの道を選んだのは、僕の子供に、話を届けたかったからです」
不意に飛び込んできた言葉は不可解で、凪はサッと顔を上げて汐音を見つめなくてはならなかった。
汐音は凪の方を見ないまま、真っ直ぐに顔を上げて一度だけ震える唇を引き結ぶ。
「僕には、実は子供がいます。元気に暮らしているはずです。……はずと言うのは、僕が子供を産んだ時、とても育てることはできないような状況だったために養子に出したからです。とても良い家庭に引き取られたと言うこと以外、僕には何の情報もありません。子供の引き取り先を調べないこと、子供を一度も抱っこしないこと、子供と連絡を取ろうとしないこと。それらを条件に、子供は引き取られていきました」
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