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Aria of Echoes 38
講堂内がざわりと騒がしくなる。
「今にして思うと、なんて馬鹿なことをしたのだろうとわかります。けれど、その時は、来月の家賃もない、いや……子供の産着一つ用意してやれない自分のそばにいるより、幸せになれると信じて手放しました」
凪は今すぐ机を叩いてこの講義を止めたかった。
この話はこんな講義で初めて聞くような話ではない と、口を閉じるように願いながら首を振ってみせる。
「この世にいる僕の子供に向けて、それでも何かできることはないか? 子供とわからなくとも、親と名乗れなくとも、それでも君を愛しているんだと言う思いを伝えたくて、僕は絵本を描きました」
汐音の朗々とした声は真っ直ぐに前を向いて、周りの喧騒を切り裂くように響く。
「君を愛している、君を思っている、例えそばにいることはできなくとも、わずかでも君の笑顔を作ってあげたい。そんな思いを込めて、僕は絵本を描き、絵本作家になったんです」
最後は、視線を凪に向けていた。
真っ直ぐ、後悔のない双眸だったけれど、目の縁の赤みはさらに増していたし、照明に震えるように雫が煌めいていた。
日が落ちた後のベンチはいまだに熱を含み、そこに座る凪を焼き尽くすかのようだった。
夏の日の長い夕日が震えながら崩れ落ち、暗闇の中に小さな虫の音が響く。
「 ――――凪」
名を呼ばれて顔をあげると、くたびれたような汐音が立っている。
初めて会った時のような、透明感のある美しさを纏ってはいたが、それは今にも消えてしまいそうな危うさを含むもので……
「以前に、君が僕の体に傷があるのを見つけたでしょ? あれって、妊娠線なんだ」
「にんし……?」
「急にお腹が大きくなって、皮膚が裂けるの」
「…………妊娠……」
つぶやいた凪の隣に座ろうとしたが、汐音は考えを変えたのかそのまま一歩身を引く。
「他……の、男の子供、だよな」
「…………」
凪の言葉に汐音は言葉で返事をせずに、小さく頷いて返した。
「その時、付き合ってた人の子供。でも……僕、捨てられちゃって……はは、まだ全然……学生で、育てられないし、はは。でも……ここにいる命を諦めるなんてできなくて……あ、はは……それで 」
「笑うな」
鉄槌を下すような重苦しく鋭い声に、へらりと浮かんでいた汐音の笑みが崩れ去り、気まずい表情だけが後に残る。
「ごめ……」
「つまり、子供がいるからオレは振られたんだな?」
「ち、ちがっ……僕は年上だし、子供も産んでるなんて……ア、アルファは、共用を嫌うじゃないか……」
弱々しく告げると、汐音は萎れるように俯く。
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