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Aria of Echoes 43

 慌てて駆け寄って背中をさすり、汐音の体を楽にするために横たえる。 「  っ、君の香りが暴走すると、僕にはちょっときついかも  」  弱々しい笑顔は汐音なりに雰囲気を戻そうとして作られたものだったけれど、蒼白の顔色に浮かぶそれはただただ痛々しさを見せつけただけだった。 「コントロール……できてなくて、ごめん」 「うぅん、気に障ること、言っちゃったでしょ? 謝るのはこっちだよ」 「違う、そうじゃないんだ」  横になって少し呼吸がしやすくなったのか、汐音は首を傾げて見せてくれる。  そんな汐音に、凪は先ほど自分が考えたことを全てぶちまけてしまいたい衝動に駆られて……けれど、赤みの戻ってこない汐音の顔色に奥歯を噛み締めて堪えた。  自分よりも先にこの体に触れたもの全て。  今の凪にナイフを持たせたら、汐音と肩がぶつかった人間、挨拶を交わした人間、視線が合った人間、全てを殺しに向かっていただろう。 「   ————嫉妬、してるんだ」 「ぅん?」 「汐音は、オレのものなのに」  他から聞けばただの独占欲の強い男の傲慢なセリフだったが、未来を誓い合っている汐音にはその言葉が乾いた心に染み渡っていくのを感じた。  凪のこの独占欲が欲しかったのだと、捨てられていらい潤うことのなかった心の地面にぽとぽとと雨水が降り注ぎ始めた気分だった。  それはくすぐったくて、満たされて、そして幸せな心持ち。 「   年上の、近所の大学生 だよ」 「っ!」 「当時の僕からしたら、すごく大人に見えたけど……実際は君みたいな感じだったのかも」 「お ぃ。何を言って……」 「美大生で、絵を描くのは上手だったよ。最初はモデルにしたいって、……でも、その最中に僕がヒートを起こしちゃって…………」  青い顔色は戻らないままで、昔話を始めた汐音は今にも消えてしまいそうなほど儚い存在に見えた。 「それで、襲われたのか?」 「うぅん……彼は、耐えてくれたの」  力のないはにかみ笑いは、再び凪の心に鋭い爪を突き立てる。 「だから、付き合って……………………でも、ダメだった」  言葉を選んではいたが、出てきたセリフがすべてを物語る。きっと汐音は柔らかい表現を探そうとしたのだろう と、凪は気づいていた。  それはその男の名誉のためなんかじゃなく、凪に無駄な怒りを抱いて欲しくないから。  もう過去のことで、記憶にあるけれど、感情で振り返るようなことはない出来事なのだと。  汐音は決別した過去のことをできるだけ淡々と口に出す。 「子供に手を出したら、世間からどんな目で見られるか……子供を産むには若すぎるからだとか……理由はいっぱいいっぱい、ありすぎるくらいあったから……」

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