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Aria of Echoes 45

 声音は頑なだ。  凪はそこに意地があるのではないか、虚勢を張っているだけではないのか? と、わずかな情報を汲み取ろうと汐音を見つめてみたが、結局は何も見つけられないまま引き下がるしかできなかった。  後期の授業も必要最低限だけを取った凪は、必須授業である「第二次性別社会学」にうんざりとしていた。  そんなことよりも、午後からの四年次の学科内展示のための準備に抜け出してしまいたかった。けれど前期で散々サボっていたせいか目をつけられたようで…… 「本日は、オメガの妊娠初期における特殊な生体防御反応、いわゆる『巣作り(Nesting)』の生物学的意義について講義します」  そう言いつつ、教授は凪をひたりと睨みつけていた。  教授が講義に夢中になり出したらそっと抜け出そうと思っていた凪は、視線を振り切ることができずにそのまま過ごすごと椅子に座り直すことになった。 「一般的な動物行動学において、巣作りは出産準備や育児環境の確保と捉えられがちですが、バース性における妊娠初期の巣作りは、より切実な『胎児の生存戦略』としての側面を持ちます。なぜなら、受精直後の極めて初期段階にある胎児(胚)は、環境因子、とりわけ『番以外の他アルファが放つフェロモン』に対して非常に高い脆弱性を持っているからです」  凪はレジュメに目を落としながら、本をパラパラとめくる。  教授が読み上げているページを見つけると、あくびを噛み殺したために流れた涙を拭いながらぼんやりと眺めて…… 「生物学的なメカニズムとして、妊娠初期のオメガが他アルファの強いフェロモンに曝露されると、母体側がそれを『異常事態』あるいは『生殖の失敗』と認識し、受精卵の着床を阻害、または初期流産を引き起こす可能性が極めて高くなります。これは野生の哺乳類で見られる『ブルース効果』えぇと……既交配の雌が異性のフェロモンによって妊娠を中断する現象の発展型と言えるでしょう。オメガのアフターピルはこれを応用して、人工的なフェロモンに晒すことで阻止阻害をしています。昔からオメガに対して行われてきた避妊方法でもあり、最も負担のかからない受精阻害方法と言われています」  性の話にかかるからか、生徒たちはどこか居心地が悪そうにモゾモゾと座り直している人間が多い。 「このように、妊娠初期のオメガにとって『他アルファのフェロモン』は、せっかく宿した命を脅かす最大の脅威つまり受精防止因子の塊に他なりません。そのため、妊娠を検知したオメガの脳内ではプロゲステロン等の妊娠維持ホルモンが急激に分泌され、本能的な防衛行動を引き起こします。これが妊娠初期の『巣作り』です」  

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