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Aria of Echoes 46
コツコツ とシャープペンシルの先で教科書を叩き、将来起こるだろう出来事を思い描いて凪は口元を緩ませる。
自分の匂いのついたものに包まり、自分以外の全てを警戒する汐音の姿は可愛らしいだろうと、ページの端に落書きを始め……
「行動例として、自身の周囲を番であるアルファの衣類、毛布、私物などで囲い込みます。これは視覚的安心感を得、受精阻害因子が自身の感覚器官や生体に届くのを物理的、化学的に遮断し胎児を守るのです」
教科書の端には凪の服にくるまって幸せな表情をしている汐音が描き上がりつつあったが、ふと指の動きが止まる。
今朝もそうだった と、凪は視線を揺らがせた。
愛用していたカーディガンに始まり、Tシャツ、ズボン、それから下着まで……汐音は入り浸っているせいで着替えがないからと言い訳していたが、目を離すと凪の服を身につけては満足そうにむふふと笑う。
その様子が可愛らしくて放置していたけれど……と、シャープペンシルの先が惑うように揺れる。
「つまり、巣作りとは自らの妊娠を守り抜くための、最も原初的かつ合理的な生体防御システムなのです」
教授のはっきりとした言葉が凪の意識を切り裂くように耳に届く。
ぶるりとひとつ、大きく体が震えた。
「……は、はは」
思わず漏れた声が思いのほか講義堂に大きく響き、周りの視線が一気に集まる。
「……先生。この巣作りは…………意識してするものなんでしょうか?」
「はい?」
胡乱な教授の視線は少し考えるように逸らされる。
いつも授業をまともに聞かず、すぐにいなくなる生徒の顔を覚えていただけに教授の態度は冷ややかだったが、それでも義務を思い出したのかゆっくりと口を開いた。
「これは本能的に行われるもので、自身も妊娠に気づかないうちに始めるという報告が多いですね」
「…………ありがとうございます」
上擦った感謝の言葉に教授が片眉をあげた瞬間、凪は広げた教科書を放り出して扉へと駆け出す。
背後から教授の声が聞こえたけれど、凪は今が授業中だということも忘れて飛び出していく。汐音は今日も何くれと理由をつけて凪の部屋に居座っているはずだった。
「 っ! くそ! どういうことだよっ」
弾む息の下で呻きながら走り続ける凪を、通り過ぎる人々は怪訝な視線で見送っていく。
「っ、 なんで、気づかなかったんだよ! くそっくそ!」
悪態を吐きながら鍵をドアに差し込もうとしてうまくいかず、そんなことで開くわけないと分かっていながら拳を叩きつける。
どぉん と響く音は鈍く、平時は聞くことがないような響きだ。
「ぁ、あ……っ汐音っ!」
掠れた声が喉から零れた。
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